知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第2章:年金制度の基本
「遺族年金」(第20回)

「遺族年金」は、受給する状況によってその年金の構成や性格が変わる複雑な年金だ。まず、「遺族年金」には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があるが、この二つの年金はだいぶ性格が異なる年金である。ひと言でいうと「遺族基礎年金」は遺族のうちの子供のための年金で、「遺族厚生年金」は実質的には妻のための年金といえる。

「遺族基礎年金」は子育て年金

「遺族基礎年金」は、年金加入者が死亡した場合に、その被保険者に「生計を維持」されていた子(18歳未満)または子のある配偶者(妻とは限らない。夫の場合もある)に支給される年金だ。

 受給権者は、子か子のある配偶者で、「子」の要件は「18歳未満」未満であるから、子が受給するにしろ、配偶者が受給するにしろ、子が18歳になった年度の年度末で支給は終了する。なお、障害のある「子」の場合は、「18歳未満」を「20歳未満」に置き換える。いずれにしても「子」が要件になっているため、別名「子育て年金」とも呼ばれている。

 死亡した被保険者に「生計を維持」されていたという要件は、遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに、「生計を同じくし年収が850万円未満」という緩やかな基準である。

「遺族厚生年金」の支給対象は幅広い

 「遺族基礎年金」に対して「遺族厚生年金」の支給対象者は幅が広い。

 死亡した被保険者(この場合の被保険者とは厚生年金の被保険者=第2号被保険者)の遺族のうち、「生計を維持」されていた、配偶者、子、父母、孫、祖父母が受給対象者になるが、妻以外には年齢の条件がつく。夫、父母、祖父母は55歳以上、子、孫は18歳未満だ。
 優先順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母の順であり、最優先者のみに支給される。

 このように、「遺族厚生年金」の支給対象者は幅広いのだが、妻以外には年齢の要件があるため、実態としては「妻」に支給される年金という性格が強いといえる。

 また、夫の死亡時に妻が30歳未満で子がいなければ、遺族厚生年金は5年間限定支給の有期年金になる。夫の死亡時に、妻が30歳以上か、30歳未満でも子がある場合は、遺族厚生年金は、「準終身年金」になる。

 「準終身年金」とは、再婚など一定の事由に該当しない限り、受給者が死ぬまで支給されるということである。受給者が子である場合は、遺族厚生年金は18歳になった年度の年度末で終了するので、有期年金といえる。

 遺族厚生年金の年金額は、前回述べたように、死亡者の老齢厚生年金同様の算出方法に、300月の保証をつけた額の4分の3の額になる。

遺族年金の時系列変化

 「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」はその性格が異なるが、厚生年金加入者の死亡当時、残された配偶者に18歳未満の子がいれば、配偶者には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の「2階建て年金」が支給される。

 しかし、「遺族基礎年金」は前述のように子が18歳になるまでの有期年金だ。したがって、「遺族年金」は時の経過により、その姿を変えることになる。厚生年金加入者である夫が死亡し、子のある妻が受給すると仮定して、遺族年金の時系列を追っていこう。

 まず、妻は子が18歳になる年度の年度末(3月)まで、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」を受給する。「遺族基礎年金」には子の加算がつき、子の加算は、子一人につき、224,000円だが、3人目からは74,800円(いずれも平成29年度の額)だ。ここでは子は一人とすると、「遺族基礎年金」は本体が、779,300円+子の加算が224,000円で、計1,003,300円になる。

 「遺族厚生年金」の年金額は意外と低い。「遺族厚生年金」の年金額は、原則、夫の「老齢厚生年金」の4分の3の額である。通常、サラリーマンを続けてきた男性の「老齢厚生年金」の年金額は、その人の給与により、概ね100万円から150万円ぐらいだが、これは、60歳以上まで生きた場合の額である。通常約40年の厚生年金の加入期間があるケースの年金額だ。

 仮に、夫が比較的若いときに死亡すれば、300月(25年分)の保証があるが、加入期間だけの比較で40年加入に比べて約6割、若い頃は給与もさほど高くないだろうから、実際には6割を下回るだろう。

 さらに「遺族厚生年金」はその4分の3の額になるから、概ね45万円から55万円程度になると思われる。ここでは50万円としておこう。そうすると、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」合わせて約150万円ということになる。

 子が18歳になると(正確には18歳になった年度の次の年度から)、「遺族基礎年金」の約100万円がなくなり「遺族厚生年金」の約50万円だけになる。だが、子が18歳になったときに妻が40歳以上であれば、65歳になるまで「遺族厚生年金」には、60万円弱(正確には584,500円、平成29年度額)の加算がつき、合計で約110万円になる。この加算を「中高齢の寡婦加算」という。

 「中高齢の寡婦加算」は65歳までの支給だが、65歳になれば妻自身が「老齢基礎年金」を受給できるので、「中高齢の寡婦加算」は「老齢基礎年金」に置き換わることになる。「老齢基礎年金」の年金額は、「遺族基礎年金」とは異なり、保険料の納付月数が480月なければ満額にはならないが、ここでは満額の「老齢基礎年金」(80万円弱、正確には779,300円)を受給するとして、年金額の合計は130万円になる。

 65歳以降は、妻に「老齢厚生年金」も支給されるが、「老齢厚生年金」と「遺族厚生年金」は相殺関係にあり、「老齢厚生年金」の方が高ければ「老齢厚生年金」だけしか支給されない。「遺族厚生年金」の方が高ければ、「老齢厚生年金」が支給された上で「遺族厚生年金」は「老齢厚生年金」との差額が支給される。結局、合計すれば「遺族厚生年金」の額にしかならない。

 妻が比較的若いときに夫が死亡すれば、遺族年金は上記のような経過をたどることになるが、夫婦がともに高齢期まで生きた場合には、最後の段階(妻が65歳以上で夫死亡)が遺族年金受給のスタートになり、実際にはこのケースが最も多い。

 したがって、夫の死亡による「遺族厚生年金」は、妻自身の「老齢厚生年金」と相殺関係にあるということが、夫婦の老後の生活設計上重要になってくるのである。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/