知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第2章:年金制度の基本
「遺族年金」の長期要件と短期要件(第21回)

遺族厚生年金の「長期要件」

 遺族・障害年金は、その保険事故である死亡、障害(障害に至る事故や発病)がいつ起こるか分からないため、保険事故が起こった「そのとき」が重要で、また年金額形成期間が十分ではないため、年金額の計算に300月という保証期間がつく。

 しかし、年金額形成期間が十分確保されてから、「そのとき」が起こることも当然あり得る。「障害厚生年金」では、厚生年金の加入期間が300月を超えていた場合には、単に最低保証の300月が実際に加入していた期間に置き換わる。

 「遺族厚生年金」においては、老齢年金の受給資格期間が25年(300月)以上ある人が死亡した場合を「長期要件」と呼んで、「障害厚生年金」と同様に300月の保証がなくなる。「長期要件」とは、遺族厚生年金独自の要件で、「障害厚生年金」において300月の保証が亡くなるケースと同じことかといえば、そうではない。

 300月の保証がなくなるのは、「障害厚生年金」では、実際の厚生年金の加入期間が300月を超えている場合だが、「遺族厚生年金」では、「老齢年金の受給資格期間が25年(300月)以上」の場合だ。

 「老齢年金の受給資格期間」とは、国民年金の第1号、第2号(=厚生年金加入)、第3号被保険者期間すべてのことだから、「長期要件」に該当したからといって、厚生年金加入期間が25年以上あるとは限らないのだ。

 例えば、会社員が10年勤めて脱サラし、その後ずっと自営業を営んでいたとしよう。自営後は、最低15年以上は国民年金の保険料を納めていたとする。この人が老後に死亡した場合、第1号被保険者期間15年以上なので第2号被保険者(厚生年金加入)期間10年を合わせて、25年になるから、受給資格期間25年で、遺族厚生年金は「長期要件」になる。

 しかし、厚生年金期間はわずか10年だから、遺族厚生年金の年金額の計算において、300月の保証がなくなると、年金額はごくわずかな額になってしまうのである。

 「長期要件」に該当すると、「死亡」という保険事故が発生した時点で、どの年金制度(言い換えれば、第1号、第2号、第3号)に加入していたかは関係なくなる。

 どういうことかというと、老齢年金の受給資格期間がすでに25年ある人が、会社勤めを辞めて第1号被保険者になったときに死亡、または会社を辞めたときに60歳以上で、年金制度に加入していなかったとしても、一定の遺族に「遺族厚生年金」が支給されるということだ。

 これは、以前「そのとき」というキーワードで説明したこととは異なるが、「そのとき」というキーワードがポイントになるのは、後述する「短期要件」の場合である。同様に「保険料納付要件」も、「短期要件」の場合の要件で、「長期要件」の場合は関係なくなる。

「長期要件」と「短期要件」

 「遺族厚生年金」では、「長期要件」に対して「短期要件」があり、「短期要件」とは、今まで説明してきたように、いつ起こるかわからない「死亡」という「保険事故」が、年金額形成期間が不十分な時期に起こってしまった場合のルールだが、一概にそうとも言い切れない面もある。

遺族厚生年金の支給要件は次のようになっている。

①被保険者が、死亡したとき。
②被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。
③障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき。
④老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。

上記の④が「長期要件」で、他は「短期要件」である。

 「老齢厚生年金の受給資格期間」については、すでに述べたが、あらためて言うと、これは厚生年金加入期間が25年という意味ではなく、他の被保険者期間(第1号期間は免除期間、保険料納付猶予期間も含める)を全部含めて25年という意味だ。

 上記の内、②がわかりにくいと思うが、「死亡」という保険事故の「そのとき」を、5年までは、死亡の原因となった病気やケガの発生時まで遡るということだ。つまり、①の「被保険者が死亡したとき」という要件の別ヴァージョンと捉えてよい。

 現実には、老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡した時点で、その人が厚生年金に加入しているということは十分にあり得る。こうした場合には、「長期要件」と「短期要件」の両方に該当することになるが、この場合は、遺族が何も言わなければ「短期要件」として扱われる。

 したがって、「長期要件」だけに該当し、年金額算定上「300月の保証が付かない」ことに留意しなければならないのは、ほとんど老後の死亡に限定されることになる。つまり、通常、「長期要件」だけに該当するケースは、定年などで会社を退職してから死亡するケースであり、一般的なサラリーマンなら、それまでに25年以上厚生年金に加入しているのが普通だから、「短期要件」の「長期要件」も年金額自体は変わらない。

 しかし、脱サラした人や、長い間自営業をしていた人など、厚生年金加入期間がさほど長くない人が、「長期要件」で死亡した場合には、その遺族(ほとんどは妻)が受ける「遺族厚生年金」は低額になる。

 夫婦が概ね平均寿命近い年齢まで生きるというケースを考えると、夫婦のうちのいずれか一方が先に亡くなることは必然であり、こうしたケースでは遺族厚生年金においては「長期要件」に該当する。

 そして、「長期要件」の遺族厚年金には、300月の保証がつかないため、死亡者の実際の厚生年金加入期間が、ストレートに遺族厚生年金の年金額に反映される。したがって、年金加入歴において、会社員期間が短い人は、自分の死後、妻が受給することとなる「遺族厚生年金」をさほどあてにはできないということになる。

 また、妻が「長期要件」の遺族厚年金を受給する場面では、妻自身の老齢厚生年金と遺族厚生年金は相殺の関係(下図参照)になることもポイントである。

 なお、第2章はこれで終了し、第3章で「老後の年金の詳細」を解説する予定だ。第2章の最後に、あえて「長期要件」という専門用語に触れたのは、老後の年金には老齢年金だけでなく、「長期要件の遺族厚生年金」も含めて把握する必要があるからである。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/