「小規模事業者M&A」を推奨する行政中小企業のための「事業承継」ガイド

PART1 事業承継5ヶ年計画

団塊世代が70歳を迎える2017年、事業承継がさらに大きな経営課題となりそうだ。

経営者の高齢化が進む中、承継準備に未着手であったり後継者が決まっていなかったりという事業者は多い。

そうした状況下、中小企業庁は「事業承継5ヶ年計画」を策定。

後継者不在の課題を解決する手段として期待が大きい小規模M&Aの促進など、事業継続の集中的な支援に乗り出した。

ここでは、5ヶ年計画の概要(PART1)と小規模M&A(PART2)について解説する。

PART1 事業承継5ヶ年計画

行政が中小企業の事業承継を支援
後継者不在の課題解決にも着手!

 中小企業において経営者の世代交代が行われる平均年齢は70歳。2020年には30万人を超える中小企業の経営者が70歳に達する。だが、中小企業の6割以上で後継者が未定という調査結果が報告されている。

 また、60歳以上の経営者のうち約半数が廃業を予定しており、その3割近くが後継者不在を理由に挙げている。しかも、廃業予定の事業者への調査では、「廃業予定企業であっても3割の経営者が同業他社より業績がよい」といい、「今後10年間の将来性についても4割の経営者が現状維持は可能」と回答しているとのこと。

 後継者難による優良事業者の廃業や、円滑な世代交代ができずに不本意な結果に終わることは、事業者が維持している雇用、所有する技術やノウハウが失われ、国内経済にとって大きな損失となる。

 これらの課題を解決するため、中小企業庁では2016年4月から事業承継検討会を立ち上げ、同年12月に「事業承継ガイドライン」を公表。さらに、世代交代への早期準備を促す具体的な中期的目標として、2017年7月に「事業承継5ヶ年計画」を策定した。

小規模M&Aで後継者難を解消

 事業承継5ヶ年計画の大きな狙いは事業承継を促すための環境整備であり、具体的な支援策は表の通り。5項目が掲げられているが、弊誌が注目したのは③後継者マッチング支援の強化と⑤経営人材の活用の二つだ。というのも、中小企業が自社で解決しにくい後継者難の課題解決に、これらの支援策が効果的と見たからである。順番が前後するが、この二つの支援策から概要を見ていきたい。

 まず、③後継者マッチング支援の強化は、M&Aにより事業の継続を支援するものだ。親族や社員に後継者がいない経営者にとって、第三者へ事業を引き継ぐ方法が最も現実的な選択肢ではないだろうか。

 支援策では、民間も含めて中小規模事業者を対象としたM&Aマーケットの形成を推進し、後継者不在の中小企業と、その事業を引き継いで会社を成長させたい企業とのマッチングを促す(PART2の図2参照)。

 具体的には、全国47都道府県に設置されている「事業引継ぎ支援センター」の体制を強化する。同センターは後継者不在の中小企業の事業継続を企業マッチングにより支援することを目的として2011年に開設された。

 この体制強化に加え、事業の売買を望む企業が登録された同センターのデータベース(DB)の開示範囲を拡大する。現状では全国のセンター関係者だけに開示されているが、これを幅広く共有してマッチング機会の向上に取り組む。

 さらに、民間M&A事業者が扱うDBとセンターのDBの相互乗り入れも検討中だ。譲渡希望企業などの情報を一括検索できるシステム(事業承継の全国取引所)をネット上に開設している海外事例などを参考に、国内でもDBネットワーク化などの環境整備を行うという。

 また、個人事業主や小規模事業者などが事業から撤退したい場合、新たに創業したい起業家が廃業する事業者のリソースを活用して事業を始められる仕組みを構築する。この実現のため、創業支援機関と事業引継ぎ支援センターとの連携を進める。
 企業マッチングに対し、人材面からの事業承継支援策が、⑤経営人材の活用である。

 経営人材の活用とは、「後継者不在の企業と社長になりたい人材をマッチングさせる」こと。「大企業や中堅企業には経営に挑戦してみたいと考えているマネジメント経験者がいる。そうした人材が、後継者不在に悩む中小企業の経営に次期社長候補などとして参画できる仕組みを整備する」という。

 体制整備に向けて、人材紹介会社と事業引継ぎ支援センターとの連携を検討している。

■表 「事業承継5ヶ年計画」により目指す姿と具体的な支援策

目指す姿
地域の事業を次世代へ引き継ぐと共に、事業承継を契機に後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新等に積極的にチャレンジしやすい環境を整備。この実現のため、今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とする

支援策 概要
①経営者の「気付き」の提供 ●事業承継を支援するプラットフォームの構築
・5年間で25~30万社を対象にプッシュ型の事業診断を実施
・事業承継支援を行う専門人材の育成と活用
②後継者が継ぎたくなる環境整備 ●早期承継のインセンティブを強化
・後継者による新機軸や業界転換などの経営革新を支援
・小規模事業者が強みを発見するための事業計画作成支援
・資金繰りや採算管理などの早期段階からの経営改善の取り組みを支援
・再生施策との連携強化
・事業承継税制のさらなる活用
③後継者マッチング支援の強化 ●小規模M&Aマーケットの形成
・事業引継ぎ支援センターの体制強化
・データベース(DB)の開示範囲の拡大や民間DBとの相互乗り入れ
※2017年度M&Aなど成約目標1000件、5年後目標2000件
④事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備 ●サプライチェーン・地域における事業統合などの支援
・下請振興法の自主行動計画に事業承継に関する取り組みを明記。自主行動計画のフォローアップによる業界への浸透
・中小企業の事業再編や統合、共同化を促進する制度的枠組みの検討
⑤経営人材の活用 ●経営スキルの高い人材を事業承継支援へ活用
・後継者不在企業へ経営人材の参画を促進するため、人材紹介会社と事業引継ぎ支援センターとの連携
・経営人材の活用を促進するためのインセンティブ策などの検討

プッシュ型支援でプレ承継促進

 今回の5ヶ年計画では、早期の事業承継を積極的に働きかけていくことが特徴の一つ。この体制づくりの中心が、①経営者の「気付き」の提供において取り組まれる「事業承継プラットフォーム」の立ち上げだ(図1)。

 事業者と日常的に接している金融機関や商工会などを窓口(事業承継ネットワーク)に、事業承継への意識が薄い事業者に対して働きかけることで承継ニーズを掘り起こし、抱える課題に基づき適切な支援機関に引き継ぐスキームを構築する。

 2017年度、事業承継ネットワークの構築に2.5億円の予算が確保されており、19県で体制を整備。2018年度には全国へ展開していく予定だ。

 ②後継者が継ぎたくなる環境整備とは、いわゆるインセンティブ型の支援策である。事業承継関連の補助金や事業承継税制の生前贈与での優遇措置などにより、早期承継を促す。後継者が資産を受け継いで新事業に挑戦する取り組みや、後継者候補が中心となって取り組む事業などを重点的に支援する制度も拡充するという。

 事業者単体ではなく、複数の企業が協力して事業継続に取り組むことを支援するのが、④事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備だ。

 柱は二つ。サプライチェーンマネジメントにおける事業承継支援と、地域ごとの事業統合の促進だ。

 前者のサプライチェーンとは、親企業と下請け事業者といった関係性のこと。「下請けが事業を継続できず廃業しては、サプライチェーンが持続できない」といい、親企業による下請けの事業承継サポートなどを促すと共に、それを支援する環境を整える。

 事業統合の促進は、事業承継をきっかけに地域の主要産業強化などを目的としたもの。例えば、地域の伝統品事業者は職人の高齢化や後継者不在などにより廃業が懸念される。事業承継ネットワークなどが課題や実態を把握し、地域独自の事業承継や事業再編統合などを支援するという。

 後継者の決定や育成、権限譲渡など、事業承継には膨大な時間と労力がかかるだけに様々な支援策を活用しながら計画的に取り組みたい。

■図1 事業承継支援の地域プラットフォーム