「小規模事業者M&A」を推奨する行政中小企業のための「事業承継」ガイド

PART2 小規模M&A

事業承継検討の最優先はM&A
早期着手が課題解決のポイント

 事業承継には、「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継」と、大きく3つの道筋がある。多くの経営者は、まずは親族内で事業を継がせる方法を考え、難しそうであれば従業員に後継者候補を探して説得を試みる。

 それでも候補が見つからないとなれば、初めて第三者承継(M&A)を検討するというのが一般的な流れではないだろうか。

 だが、「事業承継では最初にM&Aを検討するべき」という考え方が、重要という。というのも、M&Aを進めていく過程(図3)において事業承継を客観的に見ることができるからだ。

 例え会社が黒字であっても、身内や従業員が後継者候補に手を挙げない理由は、事業に将来性や魅力を感じていないからかもしれない。
そもそも身内や従業員が継ぎたくない会社や事業を、引き受けてくれる第三者は多くはないだろう。

 後継者不在という事実だけに気をとられるのではなく、将来の経営ビジョンや自社の強み、価値などを見直すことが求められる。会社や事業の価値を高める取り組みが必要なM&Aは、自社を見直すきっかけとして適しているというわけだ。

 会社の価値が高まれば、状況も変わる。M&Aを進めていく中で会社の魅力が磨き上げられ、それまで引き継ぐ意思のなかった身内が「経営をやらせてほしい」と、親族内承継に結びついた事例がいくつも報告されている。

 今では、M&Aによる第三者承継は後継者不在の課題を解決する手段として、中小企業から注目されるようになってきた。

■図3 譲渡側のM&Aプロセス

小規模事業者でもM&Aは可能

 M&A(Merger and Acquisition)とは、企業の合併・買収のこと。これまで、どちらかといえば上場企業などによるマネーゲーム(敵対的M&A)のイメージを伴うことも多かった。

 だが、その根本は既存事業の拡大や新規事業進出、人材・技術・ノウハウの獲得などによる「競争力強化」、事業の選択と集中による「企業再生」といったことを目的としている。競争力や事業を拡大したい企業に、自社事業を売却することで、事業を継続できるため事業承継の手段として注目されるようになってきたわけだ。

 とはいえ、M&A市場では中小企業といっても売上高が数十億円以上の会社による案件が中心。これは、成約した時の手数料が売り上げに直結する仲介事業者は、利益が出ない規模の小さな案件を扱いたがらないことが理由である。

 このため、小規模事業者や個人事業者などがM&Aに取り組もうとしても受け入れ先はほとんどなかった。

 では、規模の小さな企業、小規模事業者や個人事業者などがM&Aを活用した事業承継を検討することは可能なのだろうか。

 結論からいえばイエスだ。PART1で解説した通り、行政主導で規模の小さい中小企業や個人事業者などを対象とした小規模M&Aが進められている。その規模感は、売上高で数千万円から10億円程度までが想定されており、公的機関である事業引継ぎ支援センター以外にも、小規模M&Aを扱う仲介業者、金融機関や会計事務所なども増えつつある。

 また、事業を売買したい企業や事業者をWebサイト上で仲介するマッチングサービスも登場。閉店を考えていた個人経営の居酒屋主人から、常連客が店を引き継いで店が存続したという事例が時々あるが、これをネットで実現するようなイメージだろう。

 このように、規模の小さな事業者にもM&Aに取り組むための窓口が用意されているわけだが、最初の相談先としては事業引継ぎ支援センターを勧めたい(図2)。

 「一定規模以上の中小企業はもちろん、売上規模が1億円以下の事業者にも対応可能なこと」「M&Aありきではなく適切な事業承継をサポートしてくれること」「相談料や事業引継ぎが成約した場合の仲介手数料がかからないこと」などの点で、民間事業者とは異なるメリットがあるからだ。
 また、地方を中心に一部の支援センターでは後継者人材バンクを設置しており、主に地方の後継者不在企業と創業を目指す都心の起業家のマッチング支援にも取り組む。

 「発足以来の相談件数は約1万7000件、事業引継ぎ実績は791件。2017年は単年で成約数1000件、2020年には2000件を目標としている」(中小企業基盤整備機構・事業承継・引継ぎ支援センター全国本部)だけに、支援にも力が入る。

 中小企業庁の事業承継5ヶ年計画でも重点策とされており、M&Aを含めて事業承継について相談するにはよい機会といえるだろう。
■図2 事業引継ぎ支援センターの支援ネットワーク(概要)

小規模M&Aのポイント

 事業承継の手段としてM&Aを活用する場合、自社の立場は事業を相手に譲り渡す側だ。譲渡会社の流れは図3に示した通りである。

 各プロセスの概要と重要な点は図に譲るとして、大事なポイントは「早期に着手」すること。M&Aによる事業の引継ぎには、かなりの時間を要するからだ。「候補先の選択や社長の顔合わせ、交渉など何年もかかる。最低でも1年半から2年以上は見ておく必要がある」という

 早期に着手することで、事業を磨き上げる準備に時間をかけることができ、前述したように第三者承継に頼ることなく、後継者問題が解決する可能性がある。

 また、事業引継ぎのベストなタイミングを探ることができるので、譲渡側の希望を通しやすく、円滑な引継ぎにつながる。

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 後継者候補が決まっているに越したことはない。だが、事業承継で問題を抱えていたとしても、M&Aを契機に廃業危機が会社再生のチャンスに変わる可能性もある。小規模事業者や個人事業主こそ、まずは第三者承継を検討してはどうだろうか。