知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第3章:老後の年金の詳細②
夫婦の年金「第3ステージ」(第23回)

 前回は一般的なサラリーマン夫婦(夫がサラリーマンである夫婦)の「夫婦の年金」を、「第1ステージ」(年上の方が年金を受給する期間)、「第2ステージ」(夫婦がともに年金を受給する期間)、「第3ステージ」(夫の死後に妻が年金を受給する期間)と三つの期間に分け、「第2ステージ」まで述べた。
 今回は、「第3ステージ」について解説する。

「第3ステージ」

「第3ステージ」は、夫の死後である。
妻は夫の死亡による「遺族厚生年金」を受給することができるが、自分の「老齢厚生年金」が支給される場合には、自分の「老齢厚生年金」が優先的に支給され、「遺族厚生年金」の方が高い場合(そういうケースが多い)には、その差額が支給されることになる。
 要するに、妻の「老齢厚生年金」は、「遺族厚生年金」に吸収されるような形になる(下図参照)。

 「遺族厚生年金」の年金額は、原則として夫の「老齢厚生年金」の四分の三(=75%)である。妻に支給される「遺族厚生年金」は、夫の死亡による「所得の喪失」を補てんする年金だから、夫の「老齢厚生年金」の額が基準になるのだ。
 また、この場合の「遺族厚生年金」は「長期要件の遺族厚生年金」だから、短期要件の「遺族厚生年金」のように厚生年金加入期間300月分の最低保証はつかない。

 前回から今回にかけて取り上げた「モデル夫婦」では、夫が長期間サラリーマン(=厚生年金加入者)であったという前提なので、さほど低額にはならないが、夫が脱サラ等により、厚生年金加入期間が短い場合は、300月の最低保証がなく「実期間」で年金額が算定されるため、かなり低額の「遺族厚生年金」になる場合がある。

 「第3ステージ」における妻の年金は、「妻自身の老齢基礎年金」+「夫の死亡による遺族厚生年金」の二階建て年金になるわけだが、二階部分には自分の「老齢厚生年金」が割り込む形になる。つまり、二階部分が二つに区分されるのだが、その総額は結局のところ「遺族厚生年金」の額にしかならない。

 妻自身の「老齢厚生年金」は名義上支給されても、実際は「遺族厚生年金」に吸収される形になるからだ。したがって、「二階部分」の年金額を決めるのは、自分の「老齢厚生年金」ではなく、夫の生前の「老齢厚生年金」になる。なお、自分の「老齢厚生年金」が「遺族厚生年金」より高ければ、「遺族厚生年金」は受給できない。

 一般的には妻の「老齢厚生年金」が「遺族厚生年金」より低いケースがほとんどだが、この場合、妻は「遺族厚生年金」を受給できる代わりに、自分の「老齢厚生年金」の実質的な恩恵は、夫婦健在期の「第2ステージ」までであり「第3ステージ」には届かないことになる。

 ただし、「老齢基礎年金」は妻にとって「一生もの」だ。女性は自分の年金を考える場合には、「老齢基礎年金」を重視した方が良いということである。

 老齢年金は「終身年金」であり生きている限り支給され、「遺族厚生年金」も、再婚しない限りは終身年金である。したがって、老後の年金の「第1ステージ」から「第3ステージ」まで理解するということは、夫婦にとってお互いの人生の、最後までの年金状況を把握するということである。

妻が先に亡くなった場合

 ここまでは、夫が先立つことを前提に述べてきたが、妻が先だったケースについても考えてみよう。

 一般的なサラリーマン夫婦は、夫が学卒から定年または65歳前後まで会社勤めをし、妻には短期間の会社勤め期間しかないという夫婦が多い。このような夫婦は、夫の「老齢厚生年金」が高く、妻の「老齢厚生年金」は低い。

 ここで、再度、「遺族厚生年金」と自分の「老齢厚生年金」の関係を考えてみよう。「遺族厚生年金」受給者が自分の「老齢厚生年金」を受給できる場合、まず自分の「老齢厚生年金」が優先的に支給され、「遺族厚生年金」の方が高い場合にその差額が支給される。

 ということは、一般的なサラリーマン夫婦で、妻が先だった場合には、夫には「遺族厚生年金」の受給権は発生するが、自分の「老齢厚生年金」の方が高いために、結果的に受給できないということになる。夫婦間の「遺族厚生年金」とは、「老齢厚生年金」の高い方から低い方へと流れるがその逆はないのである。

 ただし、妻の死亡時に夫が55歳以上65歳未満(かつ年収850万円未満)であれば、夫は自分の「老齢厚生年金」が受給できることとなる65歳まで「遺族厚生年金」を受給することができる。また、夫が自営業で妻が会社員という夫婦であれば、夫の「老齢厚生年金」はないか、多少の会社勤め期間があったとしても年金額は極めて低額になるから、夫が「遺族厚生年金」を受給できる可能性がある。

「遺族厚生年金」の特例計算

 夫婦共稼ぎで、妻の「老齢厚生年金」は夫のそれよりも低いが、さほど大きな差がないというケースではどうなるか。

 実は、「遺族厚生年金」には特例計算というものがあって、「遺族厚生年金」受給者が65歳以上、つまり、妻が65歳になった後に夫が死亡した場合には、夫の「老齢厚生年金」の3/4という「原則的な遺族厚生年金の額」と「原則的な遺族厚生年金の2/3と自分の老齢厚生年金の1/2を足した額」を比べて高い方の額が「遺族厚生年金」の年金額になる。

 後者の計算方法が「原則的な遺族厚生年の額」よりも高くなるケースとは、妻の「老齢厚生年金」が夫の「老齢厚生年金」の1/2を超える額の場合になる。

 「原則的な遺族厚生年金の2/3」とは、「原則的な遺族厚生年の額」が夫の「老齢厚生年金」の3/4なので、3/4×2/3で、夫の「老齢厚生年金」の1/2ということである。つまり、「原則的な遺族厚生年金の2/3と自分の老齢厚生年金の1/2を足した額」とは、「夫の老齢厚生年金の半額(1/2)と自分の老齢厚生年金の半額(1/2)を足した額」と言い換えることができる。

 もし、夫の「老齢厚生年金」が100万円で、自分の老齢厚生年金が50万円なら、双方の半額を足した額は75万円で、原則的な「原則的な遺族厚生年金」と同額(夫の老齢厚生年金の3/4=75%)になる。

 しかし、夫の「老齢厚生年金」が100万円で、自分の老齢厚生年金が60万円なら、双方の半額を足した額は80万円で、原則的な「原則的な遺族厚生年金」より5万円高くなる。

 夫の「老齢厚生年金」が100万円で、自分の老齢厚生年金が100万円(つまり同額)なら、双方の半額を足した額は100万円で、自分の「老齢厚生年金」と同額になり、差額がないので、結局相殺されて「遺族厚生年金」は受給できない。

 要するに妻の「老齢厚生年金」が夫のそれよりも半額を超え同額未満であれば、この「特例計算」により、「遺族厚生年金」の額は原則的なそれ(夫の老齢厚生年金の3/4)よりもいくらかは高くなるので、「第3ステージ」においても、妻の厚生年金加入期間が多少は生きることになる。
ただし、そのためには、特例計算の条件があるため、妻自身が65歳になるまで夫には生きていてもらわなければならない。