逆境を「アイデア」に変える企画術/河西智彦著(宣伝会議)販促のプロが公開する実践的増収策の数々
「これならV字回復!」と本気で思える良書

 先日、「第1回店舗販促EXPO 春」(2018年1月24日~26日/幕張メッセ/主催:リード エグジビション ジャパン(株))を取材しました。一番のお目当ては博報堂のクリエイティブディレクター・河西智彦氏のセミナー「“逆境請負人”が教える、売上を増やす広告企画術」を聴講することです。

 実は昨秋、河西氏の著書『逆境を「アイデア」に変える企画術 ~崖っぷちからV字回復するための40の公式~~』(宣伝会議)を拝読しました。独自の集客策・増収策を、事例を交えながら簡単かつ論理的に解説してあり、その内容に非常に感銘。そのご本人から直接話をうかがえる絶好の機会となったわけですが、想像していた以上に論理的かつシンプルで、しかも実務的な内容のセミナーでした。河西氏が実践してきた集客・増収手法はどんな業種の企業にでも応用が利くように思います。

心の中の「3つのフォルダ」とは?

 河西氏の販促策の肝は「まず最初に自社商品・サービスの認知率と心の中の『3つのフォルダ』を考える」というもの。3つのフォルダとは人が心の中に無意識に持っている「行きたい・買いたいフォルダ」「行ってもいい・買ってもいいフォルダ」そして「行かない・買わないフォルダ」のこと。そして認知率100%とは、すべての人がその商品・サービスについて、3つのフォルダのどこかに振り分けし終わっている状態のことだとしています。

 つまりは、認知率100%で、かつ多くの人が「行かない・買わないフォルダ」に振り分けている商品・サービスは、河西氏がいうところの逆境にあるわけです。さらには、このフォルダに振り分けられた商品・サービスは、広告が奥まで届きにくくなるとのことで、どんなに面白い広告やCMを発信しても、それだけでは「じゃあ、行こう」とはならないと断言しています。

 WEBやSNSなどで大きな話題にはなったものの、売り上げにはつながらなかったという悩みを聞くことも少なくありませんが、そういう商品・サービスはまず、認知率を把握し、顧客ターゲットがどのフォルダに振り分けているのかを客観的に分析する必要があるわけです。その手法については「肌感覚、あるいは売り上げの推移などから、イメージする」とのこと。そして仮に「行かない・買わないフォルダ」が多数であるのなら、その状況に見合った販促策を講じなければ状況は打開できないと解説しています。

 では、どんな販促策を講じればいいのか? 河西氏は「3つのフォルダ間の前向きな移動は、PR(口コミ)、フルモデルチェンジ、魅力的な新ファクトが加わることで起こる、としています。「面白いらしい」「意外と楽しかった」といった生の声が、第三者やメディアの客観的な論評などとして伝わることにより、「行ってもいい・買ってもいいフォルダ」への移行が期待できるというわけであり、筆者はこのことを「顧客に再評価してもらうこと」だとしています。

 ただし、これだけでは不十分とも指摘しており、「行く(買う)理由を2つ以上つくれば、さらに『行ってもいい・買ってもいい』に振り分ける人が増える」とのこと。つまりは商品・サービスをフルモデルチェンジするだけでなく、そこに期間限定の特別プレゼント付与や会員組織へのVIP登録など、もう一つの付加価値を加えるというイメージでしょうか。

 しかし、そこで問題になるのが予算。2つ目の付加価値の効果は分かるが、それだけの費用はかけられないというケースが大半でしょう。そこで筆者が提言しているのは、過去の遊園地における事例を踏まえて「お金のかからないアトラクションを考えればいい」ということです。

 本書では冒頭、筆者が販促を手がけた遊園地「ひらかたパーク」(大阪府枚方市)の事例を紹介していますが、行く理由の2つ目として、実際に手がけた「お金のかからない新たなアトラクション」について詳述。そこにはお金をかけずともアイデア次第で大ヒットさせた“世界初”のアトラクションの数々が紹介されています。

 その詳細についてはぜひ本書をご一読いただきたいのですが、個人的に本書は「販促・集客策の宝庫」だと感じています。エンターテイメント系やBtoC系の事例が多く紹介されていることは確かですが、その基本的な方法論・考え方はBtoB系企業でも十分に応用可能。もっといえば、企画力や発想法などを磨きたいと考えているすべての人にとって、かなりの参考になると思います。「金はなくてもアイデア次第」を実践でき、V字回復を現実のものとするためのバイブル――。そんな賛辞を贈りたくなる良書です。(征矢野毅彦)