知ってトクする「年金講座」基礎の基礎 第3章:老後の年金の詳細③ 
「夫婦の年金」ケーススタディ(第24回)

 前回と前々回は、「一般的なサラリーマン夫婦」を標準ケースとして、「夫婦の年金」の時系列に沿った年金の変化について、「第1ステージ」、「第2ステージ」、「第3ステージ」という独自の用語を用いて解説した。
今回は、「標準ケース」とは異なるケースについて見ていきたい。

自営業夫婦の場合

 まったく厚生年金加入期間がなく、20歳から60歳までの40年間のすべてが国民年金の「第1号被保険者」であった者同士の夫婦、言い換えれば、会社に就職することなくずっと自営業を営んできた者同士の夫婦のケースを考えてみよう。
 このような夫婦は、割合的には非常に低いと思われる。しかし、年金制度上「サラリーマン夫婦の年金」の対極にあるケースなので、このようなケースを考えることはわが国の年金制度を理解する上で重要だと思う。

 ここは、以上のような夫婦を便宜上「自営業夫婦」と呼ぶことにする。「便宜上」というのは、厚生年金に加入したことがないというケースは、ずっと自営業者である以外にも、様々なケースがあるからだ。例えば、たまたま就職した会社が社会保険に加入していなかったケースや、ずっとフリーターだったというケース、また、夫が第1号被保険者なら妻は専業主婦でも第1号被保険者になる。

 話を先に進めると、このような夫婦は「老齢厚生年金」はまったく受給できないので、老後の年金は夫婦ともに「老齢基礎年金」だけになる。「老齢基礎年金」の年金額は、40年間滞納なく保険料を納めていれば満額の797,300円(平成29年度価額)になるが、滞納があったり、または保険料免除制度の適用を受けた期間があれば満額には届かない。

 このような夫婦の場合は、両者ともに「老齢基礎年金」のみの受給となり、「加給年金」もなく「遺族厚生年金」もない。「加給年金」も「遺族厚生年金」も厚生年金の制度だからだ。したがって、「自営業夫婦の年金」の時系列推移は、夫婦間の年齢差と他方の死亡により、夫婦それぞれの年金の足し算と引き算をすれば事足りる。

 下図は、夫が年上で、夫が先立つという前提で、「第1ステージ」は夫だけの年金、「第2ステージ」は夫と妻の年金、「第3ステージ」は妻だけの年金という推移になる。妻が年上であれば「第1ステージ」は妻の年金だけ、妻が先立てば「第3ステージ」は夫の年金だけとなり、極めて単純である。
 要するに「自営業夫婦の年金」とは個人の年金の集合であり、「サラリーマン夫婦の年金」のように「加給年金」「遺族厚生年金」といった年金の夫婦間の移動がない。

 「標準的サラリーマン夫婦の年金」は、年金の夫婦間の移動があるため、「夫婦単位」で捉える必要があるのに対して、その対極にある「自営業夫婦の年金」は、年金を「個人単位」で捉えれば済む。言い換えれば、サラリーマンは「夫婦の年金」、自営業者は「個人の年金」ということである。

中間ケース

 では、厚生年金加入期間がさほどない者同士の夫婦ではどうだろうか? 例えば、夫が30代で脱サラし、妻は多少の会社勤め経験はあっても、結婚生活の多くを専業主婦か、または夫の自営業を手伝っていたというケース等が想定される。

 このような夫婦では、お互い「老齢基礎年金+老齢厚生年金」の2階建て年金は受給できるものの、2階部分の「老齢厚生年金」は低額になる。また、ともに厚生年金加入期間が20年未満であれば、どちらが年上でも「加給年金」は受給できない。
 「遺族厚生年金」は、「老齢厚生年金」が高い方が先立った場合は、自分の「老齢厚生年金」との差額が支給されることになるが、その額はやはり微々たるものになる。

「共稼ぎ夫婦」のケース

 次に夫婦ともに会社員として、妻も夫もブランクなく勤め、さらにはお互いの稼ぎにさほど差がないという夫婦を考えてみよう。便宜上、上記のような夫婦を「共稼ぎ夫婦」と呼ぶことにする。

 会社員であった期間と給与にさほど差がないとすれば、この夫婦の「老齢厚生年金」の年金額もさほど差がつかない。繰り返すが、配偶者の死亡による「遺族厚生年金」は自分の「老齢厚生年金」とは相殺関係にある。自分の「老齢厚生年金」が優先支給され、「遺族厚生年金」の方が高い場合にのみ差額が支給されることになる。
 したがって、夫婦のいずれが先立った場合でも、「遺族厚生年金」は受給できないか、できたとしても自分の「老齢厚生年金」とのわずかな差額しか受給できないことになる。「加給年金」はどちらが年上でも受給可能である。

厚生年金は片働き夫婦を基準として設計されている

 厚生年金という制度は、片働き夫婦を基準として設計されていると言ってよい。したがって、共働き夫婦では、「片働き夫婦」に見られる「夫婦間の年金移動」が少なくなる。言い換えれば、制度設計上の恩恵が少ないということだ。
 さらに負担対給付という見方をすれば、「恩恵」が少なくなる分、支払った保険料に対する給付の割が悪くなるとも言える。

 社会は世代が若くなるほど、「共働き夫婦」が増え、政府も「女性活躍社会」というスローガンを挙げて女性の社会進出を推進している。このような社会情勢で、「共働き夫婦」が不利な年金制度でよいのだろうかという疑問が湧いてくる。

 しかし、年金制度に対する論評は後にして、しばらくは現在の年金制度を解説していくことにするが、読者の皆さんはこのことを頭の片隅に入れておいていただきたい。今後、女性は厚生年金に加入しない方がよいという類の話が出てくるが、これは女性の生き方に干渉するためではなく、あくまでも現行の年金制度からの視点である点に留意していただきたいからだ。

 なお、国民年金は、もともと「個人の年金」としてスタートし、昭和60(1985)年改正によって「老齢基礎年金」を共通部分として厚生年金と合体したが、「個人の年金」という性格は変わっていない。国民年金(第1号被保険者)は、定額の保険料に対し定額の年金であり、かつ夫婦間の年金移動もないので、支払った保険料に対する給付の割合は変わらない。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/