知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第3章:老後の年金の詳細④
「第3ステージ」の重要性(第25回)

 ここまで、サラリーマン夫婦の年金を時系列に沿って、年上の方が年金を受給する「第1ステージ」、夫婦双方が年金を受給する「第2ステージ」、いずれかが先立って残された方が年金を受給する「第3ステージ」と名付けて解説してきた。

 しかし世間的には、年金制度がこのように時系列に沿って解説されることはあまりないようだ。一般の人にとっては、自分の年金額や年金見込額は調べやすいが、「第3ステージ」に関していえば、年金制度をかなり理解していないと分からない。夫婦のいずれかが、または双方がサラリーマンである夫婦にとっては、夫婦のいずれかが先立った後の「第3ステージ」を理解することが意外と重要なのだ。

「第3ステージ」三つの重要性

 「第3ステージ」の重要性は、第一に受給期間の長さが挙げられる。一般的には女性の平均寿命の方が男性よりも長く、かつ妻が年下の夫婦が多いので、これまでと同様に夫が先立つケースで考えてみよう。そう考えると「第3ステージ」は意外と長いのである。

 2017(平成29年)3月に公表された「第22回生命表」によると、男性の平均寿命は80.75歳、女性は86.99歳だ。数字を丸めて、男性81歳、女性87歳とすると、男女の平均寿命の差は6歳ある。

 仮に、妻が5歳年下の夫婦がお互いに平均寿命まで生きたと仮定すると、妻が65歳になったときに夫は70歳だから、夫が81歳になるまでの11年間が「第2ステージ」(夫婦がともに年金受給する期間)になる。

 では、夫の死後である「第3ステージ」はというと、夫の死亡時に妻は76歳だから、87歳までやはり11年間ある。つまり、妻が5歳程度年下の夫婦では、少なくとも年金の受給期間で見ると、「第3ステージ」の重要性は「第2ステージ」と変わらないことになる。

 ただし、年の差がさほどない夫婦や、妻の方が年上の夫婦では、相対的に「第3ステージ」の重要性は低くなるということでもある。

 第二に、「第3ステージ」が、夫婦の老後の最後にくるという点である。時期的に先になるほど、年金の支給水準自体が徐々に引き下げられるという点から考えると、老後生活設計上なんらかの対策を講じなければならないという視点からは、やはり「第3ステージ」がより重要となるのである。

女性の働き方への影響

 第三に既婚女性の働き方への影響が挙げられる。「第3ステージ」は、夫に先立たれた妻の年金の構成が変わる期間である。具体的には自分の「老齢基礎年金」に、夫の死亡による「遺族厚生年金」が乗る「2階建て年金」になるが、妻自身の「老齢厚生年金」がある場合は「遺族厚生年金」と相殺されることになる。

 このことは、妻の働き方に影響する。妻が会社勤めをして、自分の老齢厚生年金を増やすという「恩恵」が限定されることになるからである。仮に夫の「老齢厚生年金」が同額で、妻の「老齢厚生年金」が異なる夫婦の「第3ステージ」の年金額を比較してみよう。

 例えば、A夫婦は、夫の「老齢厚生年金」が120万円、妻の「老齢厚生年金」は30万円、B夫婦は、夫の「老齢厚生年金」が120万円、妻の「老齢厚生年金」は50万円だとする。そして「老齢基礎年金」は皆同額で80万円(平成29年度で満額779,300円だが、数字を丸める)とする。

 夫婦健在の「第2ステージ」では、A夫婦の夫婦合計年金額は310万円、B夫婦は330万円と妻の「老齢厚生年金」の分だけ差がつく。しかし、「第3ステージ」で妻が受給できる年金額は、双方ともに170万円になる。

 両夫婦ともに、夫の「老齢厚生年金」は120万円なので、夫の死後の「遺族厚生年金」はその3/4の90万円になる。A夫婦の妻は、妻自身の「老齢基礎年金」80万円+「老齢厚生年金」30万円+「遺族厚生年金と妻の老齢厚生年金の差額」60万円で、計170万円。
B夫婦の妻は、妻自身の「老齢基礎年金」80万円+「老齢厚生年金」50万円+「遺族厚生年金と妻の老齢厚生年金の差額」40万円で、やはり計170万円である。

 B夫婦の妻は年金額にして、20万円分A夫婦の妻より長く働いたか、または給与が高かったか、いずれにしろ、「老齢厚生年金」20万円分の保険料をA夫婦の妻より余計に払っていたはずだ。しかし、それは「第3ステージ」には届かないということである。

 したがって、年金的には、妻が会社員として働くことは無駄とはいえないまでも、その効果は限定的であり、妻が長く働くよりも夫に長く働いてもらった方が「第3ステージ」の年金を増やすことになる。一般的なサラリーマン夫婦(夫に比べて妻の厚生年金加入期間が短い夫婦)の妻の「第3ステージ」の年金額を決めるのは、妻の「老齢厚生年金」ではなく夫の「老齢厚生年金」になるである。

 以上はあくまでも、夫に比べて妻の「老齢厚生年金」が低い夫婦にいえることであって、夫が自営業で妻が会社員という夫婦、または妻の方が高所得の会社員(老齢厚生年金が夫より高くなる)であれば、「遺族厚生年金」は期待できないので、このような夫婦の場合は妻がなるべく長く勤めて、自分の「老齢厚生年金」を高くする方が年金的には有利になる。

 なお、妻の「老齢厚生年金」が夫の「老齢厚生年金」の半額以上になる、またはそれが見込まれるような夫婦では多少話が違ってくる。妻が65歳以上で夫が死亡した場合には、「遺族厚生年金」の特例計算(第23回:夫婦の年金「第3ステージ」参照)によって、「遺族厚生年金」の年金額が、原則的な「遺族厚生年金」の年金額(夫の「老齢厚生年金」の3/4)よりも高くなるからだ。

 しかし、この「特例計算」は、妻が65歳になるまで夫が生きていることが前提なので、事前に確定しているわけではない。こう考えていくと、やはり、サラリーマンと結婚するという前提において、大多数の女性にとって、男性に比べると「老齢厚生年金」の重要性が低く、「老齢基礎年金」の方が重要であるという結論になってしまうのだ。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/