福島敦子のアントレプレナー対談コミュニティ型の自習室で
「勉強」のイメージを刷新!

株式会社ブックマークス 山村 宙史社長

株式会社ブックマークス(東京都渋谷区)

株式会社ブックマークス
●本社所在地:東京都渋谷区恵比寿1-23-21 ヤマトハイツ803
●設立:2008年8月19日
●資本金:18,000,000円
●役員:代表取締役・山村宙史
●事業内容:学ぶ大人が集まるコミュニティ「勉強カフェ」の運営

一般的な自習室との違い

福島御社はコミュニティ要素を付加した独自の自習室「勉強カフェ」を展開されています。まずはどんな自習室なのかをご説明ください。

山村従来、自習室と呼ばれるものは予備校の近くにあったんです。予備校生が受験のために何時間も籠もって勉強する場所。そういう自習室と当社が一番違う部分は「一人で勉強するだけが大人の勉強じゃない」と考えて実践していることです。

自習も大事だけれども、それ以外にも例えば今日こうやってお会いしてお話を聞かせていただくことも学びだと思いますし。自習室というくくりでありながらも「自習だけでは得られない学びを得られる場所」というコンセプトなんです。

福島私が仕事の合間に、資料などを読みたいと思った時に利用する場所というと、図書館やカフェなどが多いですね。

山村そういう方が非常に多いと思います。私にも同じような経験があります。転職をした時に会社から、ある資格を取れといわれたんです。

試用期間の3カ月以内に取れということで、私自身そこで初めて勉強しなきゃいけなくなったんです。自宅で勉強できれば問題なかったのですが、当時は勉強する習慣がありませんでした。

あまり勉強してこなかったものですから、家でやろうにも、なかなか集中できない。「これではまずい」ということで、最初は図書館を考えました。ところが仕事が終わってからだと、夜遅くまでは開いていない。

それで喫茶店やカフェに出向きました。そこは確かに勉強できますが、さすがにコーヒー1杯で朝から晩までは難しい。家でできない。図書館も閉まってしまう。カフェも朝から晩までは使えない。でも、3カ月以内に合格しなければならい──。そこで見つけたのが、冒頭でお話したいわゆる有料自習室です。

その時に気づいたことが二つありました。一つは「お金を払って勉強場所を確保したいという人が、世の中には大勢いるんだ」ということ。そしてもう一つが、言葉は悪いのですが「空間としてイケてないな」ということです。

福島イケてない?

山村有料自習室というのは、本当に殺風景な空間です。ただの事務所に仕切りと机と椅子が並んでいるだけ。しかも私語厳禁、飲食禁止、電卓たたくのも禁止とか。いろいろなルールで縛って、その環境を維持している。そういう空間で縮こまりながら勉強することは、個人的には居心地が悪かったんです。

そうではなく、社会人の勉強とは嫌々するのではなく、そこへ出向いて勉強すること自体がわくわくするというか。そのためには、もっとリラックスができる空間で勉強できないかなと思って。

それでうちは音楽を敢えて流しているんです。従来の自習室のセオリーからすると、絶対にあり得ないこと。でも、リラックスできるような空間で、自分が使いたい時にいくらでも勉強ができる。そんな場所があったらいいなと思い、「だったら自分でやっちゃおうか」という感じで、それが始まりでした。

ビジネスブログの活用

福島第1号店はどちらで?

山村今はないんですけれども、千駄ヶ谷(東京都)に1号店を開きました。2008年11月です。

福島1号店の滑り出しは、どういう状況だったのでしょうか。

山村本当に大変でした。ビジネスをゼロから立ち上げることが、いかに難しいかということを痛感させられました。

オープンにあたって、資金を借り入れました。そのために事業計画を作成したのですが、そこでは最低でも最初の1カ月でこれぐらいの来店数があり、売り上げはこの程度という予測を立てました。

僕なりには固い目標を立てたつもりだったのですけれど、いざフタを開けてみたら、計画の5分の1程度。当初2カ月で集めた会員数はたったの3人。さすがにまずいと思って、セミナールームを使った勉強会を立ち上げました。

そちらは割と生徒さんがついて売り上げも上がったのですが、肝心の勉強カフェとしての事業は閑古鳥。当時、家賃だけで70万ぐらいはかかっていました。

福島都心ですからね。

山村にもかかわらず当初3カ月の月商は20万〜30万円。浮上のきっかけすら見えず、どうしようかなと。運転資金は当初予定よりもはるかに速いスピードで減っていきますし、精神的にも相当きつかったです。

福島不安ですよね。ではビジネスが好転するターニングポイントは何だったのですか。

山村きっかけの一つはブログでした。僕は起業を思いついた時から、日記のように書いていたんです。そしてオープンから2カ月ぐらい経った頃、あるコンサルタントに「ビジネスブログ」の存在を教えてもらったんです。そして「今までの自分のブログは書き方が違う」と。ブログはしっかりと目的を持って書けば、集客ツールになるということを教えてもらったんです。

本当に後がない状態だったので、それを信じてやろうと思い、書く内容もそれまでの日記をやめて、「勉強したい」という気持ちを後押しするような情報にしたんです。歴史上の偉人の名言ってあるじゃないですか。その中から自分でいいと思ったものを紹介して、そこに僕の思いみたいなものを付記したんです。

福島勉強したいというモチベーションを高めてもらうための情報発信を毎日ですか?

山村そうです。暇だったんですよ。お客さん、誰もこないので。1日3回書いた日もあります。それを続けているうちに、ダイレクトメッセージが届くようになったんです。「いつも読んでいます。興味があるのでお店を見に行っていいですか?」という感じで。

ブログを読む人は、ご自身でも書いているんですよね。そのネタとして来店される。そして、その方の記事を読んだ別の方からまたメッセージが届き、見学にこられる。本当に少しずつですが、来店者が増えきた最初のステップでした。

書き続けた「プレスリリース」

山村もう一つはブログと並行して、プレスリリースを毎日のように書いたことです。それをファクスで大手のマスメディアさんに送っていました。

福島ファクス番号を調べて一方的に送るという感じですか。

山村そうです。送っても何の連絡もない。でも、また書いて送って、また何の連絡もない。その繰り返しです。さすがにあきらめて止めていた時期もあったんですけれど、オープンから半年目ぐらいに、もう1回プレスリリースを書こうと思ったんです。

今度は書き方も本で勉強しました。「取材して」とお願いしても無駄なので、ちょっと記事っぽい書き方を学んだんです。そうしたら読売新聞さんから「ぜひ取材を」と連絡をいただき、「ちょっと変わった自習室」という感じで、写真付きで掲載いただいたんです。これが一番の転換点でした。

福島それは、かなり効果的な宣伝になったのでしょうね。

山村それが、確かに転換点にはなったのですが、その記事自体ではお客様の来店はなかったんです。なぜかというと、当時、「勉強カフェ」という名称はサブで、店の正式名称は「Bookmarks」だったんです。ですから新聞には「Bookmarks(東京渋谷)」と紹介されました。

Bookmarksなんて、いってしまえばただの英単語。それで検索しても、うちのサイトは出てこない。ただ英語のサイトがたくさん出てくるだけという。

福島「勉強カフェ」という名称は記事の中にはなかったのですか。

山村なかったんですよ。「変わった自習室がある」という感じで載ったので、全然反響がない。ただ、僕の知らないところで事態は好転しており、読売新聞さんの記事を見て、他のメディアからオファーがくるようになったんです。

福島取材させてくださいと。

山村ええ。次はNHKさん、テレビに出たんです。「これで行ける」と思ったら、そこにもオチがあって、NHKは店名を放送してくれない。それで最終的には日本テレビさんに取材していただいて、そこで初めて「勉強カフェ」という店名を放送していただきました。

それからは毎日、入会の方がくるようになって、本当にギリギリのところで何とかなったんです。あと1カ月メディアへの露出が遅かったら、運転資金もかなり枯渇していましたしね。本当に首の皮1枚つながったという感じでした。

独自のコミュニティ機能とは

福島オープンしてからの10年間で、利用者にはどういう変化がありましたか。

山村この10年の変遷は、まさしく世の中のトレンドを反映したものだと思います。オープン当時は税理士や社労士、行政書士などの資格を取って独立開業しようという方がメインでした。でも、今やそういう方は少数。最近は語学ですね。

特に英語。「TOEICで何点を取るために」とか「600点以上取らないと上に行けない」といった話をよく聞きます。また、中国語を勉強している方も増えています。

福島資料を見ると有料自習室のマーケットはこの10年で10倍ぐらいに伸びていますね。きっかけはリーマンショックだったようですが、やはり将来に不安を感じて勉強しなければ、との危機感を持つ人が増えたということですか。

山村そうです。利用する側には「自分の会社が、いつどうなるか分からない」という危機感があることは確かです。その一方で供給する側のビルオーナーの事情も、マーケットを拡大させた要因だと思います。

当時、リーマンショックが起きて空室率が一気に跳ね上がったんです。特に中小のビルは敬遠されがちだったので、一部のオーナーが自習室に目を付けたんです。空けておいてもお金を生みませんから。ですからリーマンショックを経て、需要側と供給側が一致して一気に増えたという感じだと思います。

福島なるほど。では、勉強カフェの特徴であるコミュニティ機能について、詳しく教えてください。

山村最初から「コミュニティを作るぞ」といって始めたわけではないんです。せっかく来店くださった方同士を紹介して、知り合いになってもらえたらうれしいな、と思ったことがきっかけです。

とはいえ何の共通項もない人をやたらと紹介されても、困るだけじゃないですか。なので、僕が間に入って、それぞれの情報をお聞きする。それを基に、例えば英語の勉強をしている人同士を引き合わせるとか。

「同じ資格の勉強をされているBさんという方が最近ご入会されて、ちょうど今日きているので、後で紹介してもいいですか?」という具合です。皆さん、当店のコンセプトに共感してご入会、ご利用いただいている方ですので、スムーズにつながることが多いのです。

会社の外で同じような勉強をしている知り合いができることは、結構な付加価値になると思っていて、一人また一人と地道に引き合わせていたのですが、それがいつしかコミュニティに発展したんです。

福島そうですか。長く利用されている方が多いのでしょうね。

山村そこも他の自習室とは大きく異なる部分です。一般的な自習室の場合、試験勉強をするために利用しているので、合格、不合格は関係なく、試験日がきたら自習室通いは終わり。もちろんうちにも、そういった方は一定数いらっしゃいます。

でも、我われは学びのコミュニティを意識して運営しているので、試験に合格しても、「その先で何をしたいか」という話になるんです。ある一つの試験が終わったとしても、「次に何を目指していきましょうか」ということです。

しかも、勉強カフェで知り合った方が何人かいらっしゃると、止めてしまえばその方たちと会う機会が減ることになります。そういう意味では一般的な自習室よりも、長く使っていただける方が多いですね。一番長い方ですと、もう8年ぐらいになると思います。

勉強のイメージを変える!

福島最後に、将来の目指す姿、展望をお聞かせください。

山村当社が目指すのは「勉強のイメージを変えること」です。

今の世の中は、変化のスピードが速いじゃないですか。そういう中で僕が確信していることは、大人も前向きに勉強しなければいけない時代になるだろう、ということです。

ひと昔前まで大人は、そんなに勉強しなくても何とかなったと思うんです。技術革新も速くなかったですし。

例えば今はスマホを誰でも持っていますけれど、10年前にはなかった。

でも、たった10年でスマホのアプリを開発する会社が次々と生まれたり、産業にまで発展したわけです。

では「次の10年は?」といえば、現時点では想像もできないようなものがたくさん生まれて、それを仕事にしている人も大勢いるかもしれませんよね。

ひと昔前までだったら、社会人になってしまえば、ある意味逃げ切れた部分はあったと思うんですけど。

福島終身雇用もしっかりしていましたしね。

山村そうです。でも、今はもうそうではない。新しい技術が次から次へ出てきて、若い人ほどそういうものを素早くキャッチアップする。

でも、そうなると、今すでに社会人である人たちも、やはりこの先に生まれてくる新しい技術などを自ら掴みにいって、それを自分の仕事にするとか、そうなっていくんじゃないでしょうか。

もっといえば、「自分がそもそもやりたいことって何だろう」ということを、皆が考えるようになる。自分のやりたかったことをやる。そのために新たに知識を学んでアウトプットするというのは、これから当たり前になるんじゃないかと思います。

今はまだ「資格のための勉強場所がなくて」という方へのリーチが主軸になっています。でも、今後の方向性としては、ただ資格のために勉強するのではなく、他の方とコミュニケーションを取りながら、ポジティブな意味で一生学んでいく。そういう風潮を作っていく上で、何らかのお役に立ちたいと思っています。

福島確かに今は、前向きな気持ちで一生学んでいかなければいけない時代なんだということを、強く感じます。

山村今はまだ「会社の命令で」とか「出世に必要なので」などと、ネガティブな感情で勉強している人が少なくありません。でも、そういう方にこそ、「勉強は案外楽しいな」と能動的になってもらえるような、コミュニティとしての質を上げていきたいと思っています。(敬称略)

山村 宙史(やまむら・ひろし)氏
1979年生まれ。北海道函館市出身。中央大学商学部卒業後、2002年株式会社サイゼリヤに入社し、店長職を歴任。株式会社マネースクウェア・ジャパンでのコンサル営業を経て、2008年に株式会社ブックマークスを創業。同年11月「勉強カフェ」1号店開業。趣味はトレイルランと筋トレ。
福島敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト / 津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年独立。NHK、TBSで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに600人を超える経営者を取材。現在、BSジャパンの経済番組「マゼランの遺伝子」のキャスターを担当。経済・経営の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。主な著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。
URL: http://www.atsuko-fukushima.com/