本田雅一のスペシャルレポート自動車、家電各社が各々の強みを発揮
5G見据えた取り組みを披露「CES 2018」

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

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今年のCESは“異例”のことばかりが起きた。

コンピュータの展示会COMDEXが開催されていた頃から20年以上、ラスベガスの展示会に多数参加しているが、二日続けて雨が降ったのは初めてのことだ。降雨を想定していないラスベガスのインフラは、雨には極めて弱い。エスカレーターをはじめ、様々な設備が故障した。

さらには雨が影響した交通面での混乱は、テクノロジによって生まれた“ライドシェア”というアプリケーションの危うさも示した。

渋滞が悪化する中、ラスベガスで顧客を求めて集まってきたライドシェアのドライバーたちは、街の道をよく知らないため、会場周辺でアプリがリルートする道をクルクルと回り続け、近くにいるのに降車場まで1時間近くかかることもあった。

ライドシェアは本来、交通の効率を高める効果があるはずなのだが、その実態は白タクであり、無秩序に顧客を求めて集まる車が渋滞を悪化させ、効率を悪化させた。この件はもう少し研究されるべきだろう。

さらにエレクトロニクス製品の展示会でメイン会場の半分ぐらいのエリアが停電を起こしたことも異例だった。各社のブースは電池で動くEV以外、真っ暗になるという経験は、おそらくこれが最初で最後だろう。2時間もの停電は、おそらくこの先も起きないはずである。

逆説的かもしれないが、今年ほど変化に富んだCESは過去にない。展示そのものも、“家電ショー”からの脱却が主催者の想いだけだった過去2年とは異なり、内容が伴うものになってきている。テクノロジによって社会が変わる、消費者の生活が変化する。その未来を実感する展示会という意味で、市場環境の変化を感じるにふさわしい場だった。

家電ショーから想像されるのは、エレクトロニクス技術を用いた新製品を展示し、それらを販売する流通との商談が行われる場といったところだろう。実際、以前のCESはそうした商談に加え、大手メーカーが将来の家電に関してのビジョンを話す場だった。

しかし、家電業界の発表会的な過去のCESは終わりを告げている。現在のCESはもっと多様で、社会全体が技術によって、どう前進できるのかを示す場になってきている。

ネットワーク社会の構築

CESとはConsumer Electronics Show。規制緩和などの目的で設立された北米の家電協会「Consumer Electronics Association(CEA)が、年に2回開催していた商談を行う場のことだ。それが年初のWinter CESだけに統一されて久しいが、2年前、さらに大きな変革があった。

Consumer Electronics Associationのトップであるゲイリー・シャピーロが基調講演で、CEAの名称変更を発表したのだ。CTAとはConsumer Technology Associationである。

もともと電機をテーマに活動していたCEAだが、そこにクラウドを通じたネットワークサービス、それに自動車やさまざまな電動の乗り物といったモビリティが加わり、さらにはモバイル通信技術の発展といったものも絡み合い、家電という枠組みでは包含できないテーマが増えてしまったからだ。

CTAはCESという名称のままでショーを主催しているが、その内容は単一の商品を改善していくことではなく、社会全体、あるいは人々の生活をテクノロジでどう変革するか? がテーマになっている。

その変遷を追いかけてみると、次のように捉えることができるだろう。

電気の力で、日々の生活をもっと楽に

電気の力で、日々の生活をもっと愉しく豊かに

コンピュータの力で、日々の生活をもっと愉しく豊かに

モバイル技術で、日々の生活をもっと便利に、愉しく、豊かに

あらゆるものをネットにつなげて、ライフスタイルに変革を

多様な技術をネットワークでつなげて、社会全体を変えていこう

知・情報の共有と分析で、社会全体の効率を上げよう

あふれる情報を整理して、社会全体の効率をさらに上げよう

このように変化してきたCESだが、今年、どのようなショーになっていたかといえば、最後の1行に“5G”というモバイル通信が超高速・広帯域・低遅延を実現し、モビリティを含めた社会全体をネットワーク化していくというビジョンが明確になったことだろうか。

「5G時代を見すえ、移動体を含めたネットワーク化された社会の構築」が、現在のCESの姿である。

モノではなく価値を売る時代

今の時代の主役となる“ハードウェア製品”のジャンルはなくなってきている。あえていえばハードウェアを結びつけ、何らかのアプリケーションとして顧客に価値を提供する、そのプラットフォームを持つものが主役となるだろう。

例えば、以前はパソコンに新しいソフトウェアをインストールすることで様々なことができるようになった。今でも変わらないように思えるが、実際には新たなアプリケーションはパソコン用ソフトではなく、クラウドの中に生まれている。

使用するデバイスは、そのクラウドの中のアプリケーションをのぞく窓や、インタラクションを取るための道具でしかない。パソコンからスマートフォン、タブレットへと向かったのは、その価値に可能な限りシンプルにアプローチするためともいえるだろう。

その時、その場にもっとも相応しいデバイスで、クラウドに溶け込んだアプリケーションを操ることができれば顧客は満足する。AndroidでもiPhoneでもパソコンでも好きな道具を使えばいい。

すでに自由にデバイスを選んで使える時代になっているため“最高のデバイス”を一つに絞り込むことはできない。それ故、主役といえる製品ジャンルがないCESになっている。この市場環境を象徴しているのが、家庭向けパソコン市場の衰退だ。

北米やアジア、欧州では、ほんの数年前まで家電としてのパソコンは、まだまだ大きな市場だった。ところが、今ではグローバルでその存在感がなくなってきている。

家電としてのパソコンの影が薄くなった理由は、パソコンでなければ達成し得ないアプリケーションがなくなり、パソコンの利用フィールドが狭いという弱点が、クローズアップされたからだ。パソコンは汎用的で、能力さえ高ければ何でもできるが、一方で特定用途に特化していないため、場面毎には最適ではないことも少なくない。

パソコンはデジタルトレンドの発信源としての主役を何かに譲ったのではなく、クラウドの上につながる多様なデバイスに、そのニーズが分散したといえる。

一方、自動車がCESの常連として加わってきた背景には、こうしたネットワークの中に、自動車が加わってきているからに他ならない。

今の時代に求められる商品

今回のCESのテーマは何だったのか。筆者が感じたのは“AI”と“ロボティクス”、それに“5G時代のネットワーク社会”である。LTE時代から移動体のネットワーク化は進んできたが、5Gになると社会全体がネットワークで繋がるようになる。5Gは単なるバズワードではなく、社会全体の変革が起きていることを示しているものだ。

コンピュータ同士が接続されてインターネットが生まれ、そこに様々なデジタル製品が加わり、携帯電話ネットワークが高速化することでスマートフォンがそこに加わり、さらにBluetoothの省電力化などにより、スマートフォンと連動するIoTが増えてきた。

今後は、省電力LTE技術が5Gまでのつなぎで使われ、インターネットにあらゆるものが接続されていく時代になるだろう。そして5Gでは移動体も含めてネットワーク化されていく。

この先、この社会においてネットワークに接続されていないのは、ヒトだけになるかもしれない。バイタル(生命兆候)の正確なデジタル化が可能になれば、あるいはヒトさえもネットワークにつながっていく。そんな時代の予兆がモビリティと5Gにはある。

いずれにせよ、モビリティがCESでの注目ジャンルになってきた。自動車ではなく「モビリティ」と書いているのは、必ずしも自動車とは限らないからだ。

5G時代には高速、大容量、低遅延を前提にしたモバイルネットワークが、そこから派生する技術の基盤になっていく。こうなるとネットワークに接続されるのは通信機器だけではない。移動体もネットワーク化され、社会全体が最も効率的に働くように協調しはじめる可能性がある。

トヨタが考えるモビリティ

“モビリティ”と“自動車”は何が違うのか? この疑問に対して、最も端的な形で答えを出していたのはトヨタとホンダだ。

自動車以外にも移動する道具は世の中にたくさんある。あるいは技術革新によって、新たなジャンルが生まれる可能性もある。そんな考えの基に生まれたのが、トヨタの新しい物流システムである。

「e-Palette Concept」と名付けられたこのシステムは、自動運転技術を活用したMobility as a Serviceだ。MaaSとは移動体の機能をサービスとして提供すること。3種類サイズを揃えたパレットを自動運転技術で移動させ、物流の自動化を図ろうという野心的なプロジェクトだ。

ドローンを使った配送システムが個人宅へのP2P配送なのに対して、パレットをベースにした自動物流は、トラックなどを用いた物流の基幹システムを置き換える可能性がある。

実際には個人宅配送までもカバーしているが、パレットを複数サイズ用意しているところがポイント。将来的には自動的に積み荷を載せ替えながら、物流の最適化までをAIで解決するところまでビジョンは広がっているという。

パートナーとしてAmazon、Didi Chuxing、Pizza Hut、Mazda、Uberなどと提携しており、2020年代前半にサービスを実証する。

商品を注文すると、自動運転の物流パレットが届けてくれる世界が本当に来るのかと驚く方も多いだろう。だが、トヨタは移動体保険などモビリティを取り巻く社会システム全体に目を配らせながら、このシステムの実証試験を進めていくという。単なる技術的実験を超えて、将来を見据えた戦略であることが分かる。

一方、ホンダの発表したコミュニケーション口ボット「3E-A18」は、人の感情を読み取りながら動作するロボット。人と共感し、共に成長するロボティクスとするため、生活空間に馴染めるよう、表情や感情を伝える手段として頭部へのディスプレイとAIのアプローチを応用する。

ホンダらしいのはUni-CabやASIMOで培ったバランス制御を応用していることだ。移動手段は一輪のみであるため、必要なスペースが最小限となる。さらに何かにぶつかっても怪我などをしにくいため、生活空間の中にも導入しやすい。

いずれも自動車メーカーが、それぞれのノウハウを活かし、5G社会において移動体をどのように活用するかに取り組んだもの。今後、5G社会となる中で、どのような新しい価値を提供できるのか。モビリティへとネットワークが広がる中、テクノロジ企業のあり方が問われている時期なのかもしれない。

足踏みする韓国家電メーカー

伝統的な家電メーカーはメーカー間の考え方の違いが明確になった。

サムスンは自動運転プラットフォーム「DRVLINE」を発表した。自動運転レベル3〜5に対応するというプラットフォームだが、家電領域に関しては、個別の商品に関して次世代感のある提案はなされていない。

サムスンは業界の市場リーダーではあるが、トレンドリーダーにはなれていない。彼らのキャッシュフローで最も大きなスマートフォンやテレビといった市場で、相変わらずシェアは大きいものの、新しい提案はないという時期が続いている。

今年の発表は、独自AIプラットフォーム「Bixby(ビグスビー)」とIoTプラットフォーム「SmartThings」で家庭内をネットワーク化するというもの。だが、いくらGalaxyシリーズのシェアがあるといっても、自社プラットフォームだけでネットワークを完結させることはできない。

サムスン製品だけが便利になっても、ネットワークで多様なデバイスがつながり、使い分けるのが当たり前の世の中にあっては、むしろ窮屈だからだ。

LGもAIをキーワードにしたプレゼンテーションで、グローバルに通用している洗濯機、冷蔵庫、テレビを中心に据えた、音声ベースのホームオートメーション「ThinQ」を展示していたが、基本的には対サムスン戦略で、マーケティング主導提案という印象を受けた。

韓国メーカー2社はいずれも、昨年の業界トレンド、IoTとAIというキーワードをなぞっただけともいえよう。少なくとも今回のCESでの新規性はないといっていいかもしれない。このところ伸びているOLEDテレビの画質に関しても、何ら進化の方向を見せていない。

それぞれの道「パナ&ソニー」

一方、パナソニックは新パネル採用のOLEDテレビを欧州向けに発表。より映像制作のプロフェッショナルに向けた機能を充実させたDMC-GH5Sも発売した。この二つの製品分野はパナソニック全体としては大きな位置付けではないが、その中でも伸びているジャンルだ。

レンズ交換式カメラのGH5Sは、意外かもしれないがタイムコード出力に対応し、画素数を減らして暗所での撮影性能を上げるなど、より動画撮影ニーズに特化している。

というのも、マイクロフォーサーズのシステムはコンパクトなこともあり、ドローンでの高画質撮影に使われることが多く、一部には映像作品向けにも採用されているからだ。

一方でブース設計はB2Bに特化しており、そこにカメラやテレビは一切置かれていない。北米市場でコンシューマ製品のほとんどを販売しなくなったためだ。次世代コックピットや自動運転時代のカーエンターテインメントのあり方、得意の航空機内エンターテインメントシステム「アビオニクス」の次世代ビジョンなどは提案されていた。

ただし、音声コントロールやAIプラットフォームは自社で展開するのではなく、GoogleやAmazonと協業した上で、それを得意の自動車向けソリューションに変換していくという現実的な提案をしている。このあたりは、かつて来た道で、プラットフォーマーを目指しても利が少ないことを熟知しているからだ。

向いている方向は異なるが、それはソニーの“ラストワンインチ”というコンセプトにも通じる。ソニーはかつて、ソニーエンターテインメントネットワークなど、自社でサービスプラットフォームを展開し、それを各製品につなげることで価値を高める戦略を進めていた。

しかし前述したように、自社製品に特化したサービスプラットフォームと汎用のサービスプラットフォームでは規模の違いが明確だ。アップルのように商品ジャンルが少ないメーカーならまだしも、極めて多様なエンターテインメント機器を展開していたソニーは、うまく事業をまとめきることができなかった。

アップルでさえも、Siriをプラットフォームとして機能させようとは思っていない。汎用のサービスプラットフォームとなるには、メーカーではなくインターネットのインフラ側の企業である必要があるだろう。

ソニーはネット側の企業ではなく、製品側、すなわちユーザーとの接点を創る側の企業であると考えて、徹底的にデバイス側の品質や操作性、コンセプトのユニークさに絞り込んでいるのである。

現在はプラットフォーマーとなっているゲームジャンルを除き、独自のネットワークサービスは持っていない。犬型ロボットのaiboは例外的にAIプラットフォームを自社で提供しているが、これは類似するサービスが存在しないためだ。それ以外、例えば音声コマンドによるコントロールなどは、グーグルやアマゾンのサービスを利用している。

平井一夫社長は別途行ったインタビューの中で「あくまでも製品の質や機能が重要なのであって、その先のサービスプラットフォームはソニーの得意分野ではない」と話していた。

そしてaiboのAIサービスに関しては、「aiboそのものの機能がソニーらしさを象徴するもの」だとしており、しかも、単独で動作する(他の機器と連携する必要が少ない)サービスということで「自社提供しているだけだ」と話していた。

その一方で8Kにも対応する「X1 Ultimate」という新チップなど、画質を高める方向への投資は惜しんでいない。

このチップは8Kだけでなく4Kにおいても画質が大きく向上する。X1シリーズは映像内にあるオブジェクト(被写体)を認識し、それぞれの被写体に適した画像処理を行うプロセッサだ。

8Kに対応するために能力を上げた結果、画素数が1/4となる4Kパネルでは、より細かく、より多くのオブジェクトをリアルタイムで把握、分析、処理可能になり、画質向上に寄与するようになった。OLEDでもその長所は出ているが、液晶テレビにおけるバックライト制御の優位性は飛び抜けている。

X1 Ultimate搭載テレビはアナウンスされていないものの、関係者の話を総合すると年内には製品が登場するようだ。おそらく秋にはZ9Dシリーズの後継機種かA1Eシリーズの後継機種が出てくるかもしれない。

このように、日本の大手家電メーカーは出展する企業数は減ったものの残ったところはいずれも“生き方を見つけた”という印象だ。

一方で韓国メーカーは行き場を失い、独自プラットフォームへの投資をしている。しかし、それは本当に家電メーカーの仕事なのだろうか? という疑問が拭えない。

そうした意味では「ネットワーク社会における家電メーカーの戦い方を考えさせるCESだった」といえるかもしれない。