知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第3章:老後の年金の詳細⑦
年金の繰上げ・繰下げ(第28回)

 今回は、年金の「繰上げ」と「繰下げ」という制度を紹介しよう。「繰下げ」の方は、前回からの続きで「第3ステージ」対策としての妻の「老齢基礎年金」の増やし方にも活用できる制度である。

繰上げ

 現在の年金制度の,、本来の支給開始年齢は65歳である。「繰上げ」とは、本来65歳にならないと支給されない年金を60歳から受給できるという制度だ。その代わり、「繰上げ」をすると年金額は、65歳から受給した場合の本来の額が減額されてしまう。

 「繰上げ」は、60歳から65歳までの間であれば1カ月単位ですることができる。例えば、62歳7カ月目から「繰上げ受給」をするということも可能だ。この場合の繰上げ月数は、2年6カ月(30月)ということになる。

 「繰上げ」による年金の減額率も1カ月単位で決められている。「繰上げ」期間は最大で5年(60カ月)となるが、5年繰上げで年金は30%減額される。1カ月当たりの減額率は0.5%である。前述の例を取れば、2年6カ月(30月)で0.5%×30月で15%の減額率になる。本来の「老齢基礎年金」の年金額が75万円の人であれば、75万円×0.85で64万円弱に減額されることになる。

 なお、繰上げ受給した場合、本来の支給開始年齢の65歳なっても年金額が元に戻るということはなく一生減額されたままである。だから、繰上げ受給をすると長生きした場合には「損」をすることになる。

 繰上げ受給した場合に生涯で受給する金額額が、本来の支給開始年齢で受給した場合に追いつかれる年齢を、仮に「損益分岐点年齢」と呼ぶとすれば、「損益分岐点年齢」は、繰上げ受給してからおおよそ16年と8カ月後の年齢になり、それ以上長生きすると年金の生涯受給額は本来の支給開始年齢(65歳)から受給した場合を下回ることになる。

「繰上げ」月数別の繰上げ減額率、そして「損益分岐点年齢」は次の通りである。
 なお、繰上げ受給するためには、60歳以上65歳前の範囲で年金を受給したいときに、日本年金機構に「繰上げ受給」の申請をしなければならない。

繰下げ

 「繰上げ」とは逆に、年金を本来の支給開始年齢より1年以上遅らせて(繰り下げて)受給を開始した場合、その繰り下げた月数によって65歳から受給した場合の本来の年金額が増額される制度を「繰下げ」という。具体的には、65歳に支給されるはずの年金を67歳とか68歳で受給を開始するということで、「繰下げ増額率」は、繰上げ月数が多いほど高くなる。

 「繰下げ」は、1年以上繰り下げれば、あとは1カ月単位で繰り下げることができる。つまり、66歳以降から受給可能で、受給する年齢は66歳数カ月目という月単位で構わないということだ。繰下げ期間の上限は5年間で、70歳まで繰下げできる。5年繰り下げた場合の増額率は42%で、1年当たり8.4%、1カ月当たり0.7%になる。

 なお、最近、厚生労働省が「年金支給開始年齢を70歳以上に」することを検討中という新聞等の報道があるが、これは「繰下げ期間」の上限を5年以上にすることを検討しているという内容である。65歳から支給されるはずの年金を5年以上繰り下げれば、受給する年齢は70歳以上になるということだ。

 決して本来の支給開始年齢を引き上げようということではない。年金の本来の支給開始年齢を引き上げることはあり得る話だが、現時点で検討されているのは、「繰下げ」の方だから、誤解しないように。要するに「繰下げ期間」を延長することにより、年金額をさらに増額する機会を提供しようということである。

 話が逸れたが、現行の繰下げ制度に戻ろう。「繰下げ」は、「繰上げ」とは逆に長生きをすると「得」をし、早死にすると「損」をする制度である。支給開始年齢を繰り下げることで受給できなった年金額分を、繰下げ受給後に増額部分が追いつくまでに約12年かかる。つまり、繰下げ受給してから12年後の年齢が「損益分岐点年齢」となり、それ以上長生きすれば、生涯受給年金額は、本来支給年齢で受給した場合を上回る、つまり「得」をするということである。

 例を挙げると、本来の年金額を100(年金額ではなく一種の指数として)とし、65歳から66歳まで1年間年金を繰り下げた場合で考えてみよう。

 このケースでは、1年繰下げの増額率8.4%で、66歳からは、100×1.084で、108.4の年金を受給できる。繰下げによって増える額は8.4である。対して、受給できなかった1年分の本来年金額は100である。増額部分の8.4を12回受給すれば、8.4×12回で、100.8万円になるから、12回年金を受給、

 つまり12年生きると「元が取れる」ことになる。67歳から年金を受給した人が12年生きるのだから、66歳+12年で、この事例では、78歳が「損益分岐点年齢」ということになる。
 「繰下げ」月数別の繰上げ減額率、そして「損益分岐点年齢」は次の通りである。

 「繰下げ」は、「老齢基礎年金」だけでも、「老齢厚生年金」だけでも、両方でもできる。「繰り下げる方法は、65歳時の年金請求時に繰り下げる対象の年金を申し出て、年金を受給したいときに、「繰下げ請求」をする。

 65歳時には繰下げの意思表示をし、この時点で何年何カ月繰り下げるかは決めていなくても良い。以後、1年を経過すれば、繰下げは成立するので、70歳までの間で「繰下げ請求」をしたときに、繰下げ期間が確定し、それに伴い増額率も確定することになる。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/