本田雅一のスペシャルレポート:2018年12月1日スタート「4Kテレビ放送」無料チャンネルはすべて右旋に
多くの人が4Kをたっぷり楽しめる

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

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5月8日、ソニー、パナソニック、東芝の三社が、一斉に4Kテレビを発表した。

ソニーは画面から音が鳴るOLED「BRAVIA A8F」及び液晶ハイエンドモデルとなる「BRAVIA X9000F」、パナソニックは明るいシーンの再現力を高めたOLEDテレビ「VIERA FZ1000/950」、東芝は日本初のBS 4Kチューナー搭載OLEDテレビ「REGZA X920」である。

ACAS問題を一部クリアした東芝

中でも特に注目を集めたのが「REGZA X920」だ。この製品には、BS衛星を用いた4K放送サービスに対応したチューナー(以下、BS4Kチューナー)が搭載されているからだ。

「4K/8K次世代放送サービス」に対応するチューナーに関しては、NHKなど有料放送事業者で構成されるACAS協議会が「新世代デジタル放送では新たな暗号化の仕組みを」と提言し、そこにメーカーなども協力する形で次世代CAS(放送の暗号化とアクセス制御を実現するシステム)を「ACAS」と名付けて開発してきた。

しかし、ACAS協議会が機能を実現するためのハードウェアを、従来のB-CASで使われているようなカード形式ではなく、チューナーそのものに搭載しなければならないという運用ルールにしようとしたことで、意見が分裂していた。

もしACAS機能が内蔵されることになれば、そのコスト負担や修理、あるいは商品そのもののコスト上昇を消費者が支払うことになりかねないためだ。従来のB-CASカードは受益者である放送事業者が、大多数をコスト負担していた。

そもそも、暗号化とアクセス制御は一体になっている必要がなく、暗号化だけならばソフトウェアのみで問題解決できる。そもそもCASという手法が時代錯誤なのだが、一方でNHKの契約を促すメッセージ表示などを実現するには必須。全チューナーにCASがあるからこそ、メッセージが表示できる。

そうした受益者が特定の事業者だけに偏るハードウェアを標準とすることへの是非が、まずは問われる。その上で、前述したようにB-CASカードから搭載チップ型になることによる故障修理を含むコスト負担の切り分けが事実上不可能になる。

このような状況の中で、ACAS協議会と家電メーカーが所属するJEITA(電子情報技術産業協会)が対立。放送システムそのものは、ACAS採用の方向で動かせないタイミングだったが、どのように搭載するかが決まらず、4Kテレビの商品開発に影響を及ぼすことが懸念されていたのだ。

東芝の発表は、その問題の片方が解決されたことを示している。

実は東芝がREGZA X920シリーズに搭載するBS4Kチューナーは、発売時にはACASが搭載されない。仕様が決まっているチューナーのみが搭載される。

その上で、外付けの「BS/CS 4K視聴チップ」を申込者に対して10月後半から提供する予定だ。

「BS/CS 4K視聴チップ」はACASチップを内蔵したモジュールで、USBと同形式のコネクタに装着して利用する。

果たしてCASというシステムが全テレビに搭載される必要があるのか? という問題の本質を解決するものではなく、依然、不明瞭な部分は残るものの、4K/8K次世代放送サービスに対応したテレビの発売に支障はなくなったとはいえよう。

現行B-CASのようなカード形式にこそならないものの、ACASの機能を提供するハードウェア部分を、端子を通じてテレビ本体外に装着する小さなモジュールとし、本体基板に実装することを回避する。そのことをACAS協議会が承諾した模様だ。

外部モジュールにすることが可能であるというだけで、そのコスト負担がどうなるのかや、外部モジュールは標準化されるのか(今からでは間に合わないため標準化は難しいだろう)といった問題があるのに加え、ACAS協議会が指定する商社からの部品購入を求めているなど商流に関しても異論はあるだろう。

しかし、4Kテレビの売上比率が高まってきている中、「4K/8K次世代放送サービス対応チューナー搭載テレビの製品化」が滞りなく行える準備が整ったという意味で、極めて大きな一歩といえる。

無料視聴できる民放在京キー局

こうして前へと進む環境が整った中で注目されるのは、やはりその「放送内容」である。

BSデジタル放送の場合、NHKや有料チャンネルの放映内容には納得している人も多いだろう。だが、民放在京キー局の無料放送に関しては、海外ドラマや自主制作ドラマの再放送、通販番組などが多い。スポーツ中継が行われることもあるが“力が入っている”とまでは言い難い。

広告価値が制作費用に直結する民放の場合、致し方ない面はあるが、4K/8K次世代放送サービスに関しては、民放にも割り当てられた帯域をしっかりと活用してもらう必要がある。なぜなら、4K/8K次世代放送サービスを行うためのチャンネル割り当て再編で、民放在京キー局は特等席といえる場所を優先的に確保しているからだ。

NHKはすでに4K、6K、8Kなど、高精細映像などで収録、編集を積極的に行っており、豊富なコンテンツが供給されることは確実だろう。

しかし、多様な番組構成は本来、民放在京キー局にその役割が求められるはずである(なお、日本テレビ系列のBS日テレのみ2019年12月放映開始のため、当初の1年間はフジテレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京の各系列BSチャンネルのみ)。

普及に時間? 左旋波4K放送

4K/8K放送では、同じ周波数帯を用いる二つの衛星が用いられる。一つは「右旋波」を用いるもので、これは従来のBS衛星放送を受信するアンテナなどで利用可能だ。

しかし、もう一方の「左旋波」を用いた放送を受信するには、アンテナから中継器に至るまで、電波を伝搬する経路を左旋対応にしなければならない。これが普及の遅れを来すとの見方もある。

だが、無料チャンネルがすべて右旋ならば、多くの人が4K放送をたっぷり楽しめる。

次世代放送サービスを開始するにあたっては、左旋波を用いる新しい放送衛星を打ち上げるとともに、次世代放送サービスの迅速な普及を狙って右旋波の衛星でも4K放送を受信できるように割当スロットの再編が行われた。

NHK、民放在京キー局がハイビジョン放送に使っていたスロット数を24から16に削減。スロット数は放送に使える情報量に比例するが、新型MPEG-2エンコーダ(映像圧縮装置)の採用で、画質に大きな影響を与えない削減が可能になった。そして、空いたスロットと実験放送に使っていたスロットとを合わせて、前述の6局が使う4K放送用スロット(1局あたり40)を捻出したのである。

このNHKおよび民放在京キー局に割り当てられたスロットは、BS衛星放送の現状を考えると経済的な価値が極めて高いスロットだ。

なぜなら4000万世帯が視聴可能とされるBS衛星放送受信可能世帯とは、右旋波を用いた放送を受信できる世帯数のことでもあるからだ。

一方で左旋BS衛星放送を受信できる世帯数は、おおよそ2300万世帯程度といわれている。だが、そもそも「左旋なんて言葉も聞いたことがないのに、そんなにいきなり普及するものか?」との疑問も残るだろう。

NHKアイテックの予測では、左旋が右旋と同等の世帯普及率に達するのは、2026~27年頃としている。

とはいえ、地上波番組を支える在京キー局すべてが、約4000万世帯で受信できるという事実には期待せざるを得ない。もちろん、利用者が良い体験を得るには、良質な放送コンテンツが不可欠だ。電波帯域を割り当てられた事業者には、良質なコンテンツ供給を求めたい。

ネット配信業者が台頭している現在、この機会を逃せば放送事業者の地盤沈下は止めることができないだろう。

リビングで4Kを手軽に楽しめる時代に!