ハイレゾ音響空間「KooNe」体験レポート基本原理は「自然音でノイズを消しさる」
斬新な発想が生み出すJVCのハイレゾ空間

 ハイレゾ音響空間「KooNe(クーネ)」をご存知でしょうか? JVCケンウッドのグループ会社ビクターエンタテインメントが展開しているB2B向けの、ハイレゾサウンドを使った空間音響プロデュース事業です。と、書いても大半の方にはピンと来ないかもしれません。

 クーネを一言でいえば「高音質自然音(森、川、海などの音)により、オフィスや応接室、図書館などパブリックな空間の居心地や快適性を高めるシステム」ということになります。こう書くと「ああ、よくある自然音のBGMね」という声が聞こえてきそうです。自分も体験するまでは、そんなイメージしかありませんでした。

 ところが実際にクーネを体験して感じたことは、一般的なBGMとはまったく違うということです。例えばクーネのHPには、その効果として「アイデアが浮かびやすい」や「いつもより集中できる」などの文言が並んでいますが、実際に“クーネ空間”に一定時間身を置いてみて、その文言がリアルに感じられましたし、「これはウチの事務所にいいかも」とも本音で思いました。

 こうした感覚は、文字ではなかなか表現しづらいのですが、自分なりの体験レポートをまとめてみたいと思います。

「音で音を消す」という考え方

 クーネを体験したのはビクターエンタテインメント本社の応接室。入室した瞬間に、室内空間が川のせせらぎや葉擦れの音などで包み込まれていることが分かりました。時折、鳥の鳴き声なども聞こえます。これらは決して大きな音ではなく、会話を妨げるようなものでもありません。それでもうっすらと、そして着実に耳に届いてきます。

 こうした空間で担当者からクーネの説明を聞いていたのですが、30分も経った頃、その効果を図るため、クーネの音をいったんカット。その時です。「クーネっていいかも!」と本気で思えたのは。

 クーネの音が消えたとたん、静まりかえった空間。そこで、耳に入ってきたのはエアコンの作動音でした。くぐもったようなその音は、入室時からずっと聞こえていたはずなのですが、クーネの音が切れて、初めてその存在に気がつきました。

 担当者曰く「クーネの原理は音で音を消すこと」なのだそうです。といっても、クーネの音量を上げてエアコン作動音を“かき消す”ということではありません。そうではなく、クーネの本質はヒトに心地いい音だけを認識させ、耳障りな音は耳に届いても自然と意識させない、ということです。

 以前、こんな話を聞いたことがあります。人間の耳というのは非常に都合良くできていて、いろいろな音が聞こえていても、人間は自分にとって心地いいとか興味がある音だけを選別して、それだけを認識する。目も同様で、いろいろなものが見えていても、自分にとって都合のいいものだけを認識するそうです(だから記念写真などで、撮っているときに被写体はヒトしか見えていないけれど、あとから写真を見たら隅に余計なものが写っていたということが、よくあるわけですね)。

 クーネの自然音による空間創造とは、まさしくこの原理を利用したもの。「自然音でノイズを認識させない」といったところでしょうか。しかも、クーネが発する自然の音は、大半のヒトにとって潜在的に心地いい音でもあります。

 というのも、ヒトの歴史は500万~700万年といわれていますが、この間、現在のような自然音が乏しい都市生活の歴史はわずか200~300年ほど。ヒトの歴史の99.9%以上は自然環境の中で暮らしていたわけで、クーネの自然音はヒトの本能に刻み込まれた音といえるわけです。

より効果的な「働き方改革」なのでは!?

 実際、クーネを導入した某図書館では、それ以前に最も多いクレームだった音に関するものが激減したとのこと。導入前は静かだったのですが、それがかえって徒となり、イスを移動させたり通路を歩いたりする音、あるいはちょっとしたささやき声などが耳に残る騒音となっていたそうです。しかし、クーネを導入したことで、これらの騒音が音として認識されなくなり、居心地のいい空間に生まれ変わったというわけです。

 こういう環境に身を置けば、集中力も高まるでしょうし、いいアイデアも浮かんできそうです。また、あるカーディーラーでは商談室に導入したことで、成約率がアップしたという効果も実証されたそうです。気分が良くなると、ヒトは気まで大きくなるのでしょうか(?)。

 いずれにしても、クーネの効果は「確かにあるな」と思い、そこで一つ質問してみました。「クーネのハイレゾ音源だけの配信はないのでしょうか?」と。

 クーネは月額制の配信音源と、それを再生する専用音響機器とがセットになったシステム商品。音響機器は設置する空間に応じてカスタマイズする工事を伴うため、決して安いものではありません。それならば、手っ取り早く既存オーディオで再生できれば、と思ったのです。

 しかしながら、答えは予想通り「No!」。クーネの効果を生んでいる要素は、高音質の自然音源と、設置空間に応じてカスタマイズした音響機器の二つ。既存オーディオのように点から聞こえる音響装置では効果が出ず、あくまでも音の発生源や発生方向などが特定できず、全体を包み込むように音響空間をデザインして初めて、その効果が生まれるとのことでした。

 まあ、それでこそ、音に関するハードとソフトを両面展開しているJVCケンウッドならではのB2Bビジネスなのでしょうし、一般的なBGMとは決定的に違う部分でしょう。

 いずれにしても自然音が包みこむことで生まれる音響空間は、思った以上にビジネスシーンで効果を発揮してくれそうです。こういったオフィス空間の改良も、生産性アップの観点から“働き方改革”の一つではないのかと思えるほど。個人的には、補助金などの公的支援を基に、その導入を、もっと推し進めた方がいいのではないかと強く思った次第です。(征矢野毅彦)

森林の自然音でオフィス環境を劇的に改善!