孫正義氏の基調講演:ソフトバンクワールド2018GM系自動運転技術会社へ出資
50年後のクルマ社会はこう変わる!

 先日、ソフトバンクグループの法人顧客向けイベント「ソフトバンクワールド2018」(2018年7月19~20日:ザ・プリンスパークタワー東京)に出向きました。その一番の目的は、初日の午前に開催された孫正義会長兼社長の基調講演。特にここ数年の基調講演は、近未来に起こるであろう変化について、孫氏が自社の戦略を通じて分かりやすく解説してくれる場として、大変重宝しています。

 今回の基調講演の柱は「AI」。3時間にも及ぶ長丁場でしたが、孫氏が一貫して語ったことは「AIによってあらゆる産業が再定義される」ということ。製造業や流通業、運送業や金融業、そして医療や教育などあらゆる産業が、AIの進化・普及にともなってその手法や目的、成果などを根本から見直さざるを得なくなる、というわけです。

 その中で孫氏は「AI群戦略」をかかげ、各産業のトップAI企業の筆頭株主となって、ソフトバンクグループ全体で世界のAI産業をけん引。「300年成長し続ける組織構造を構築する」という遠大なる戦略を語ってくれました。

 そこまでの長期的なグランドデザインを語られると、凡人の自分は何がどう変わるのか、変化の方向性がどうなのかがまったく見当も付かず、ポカンとするばかり。しかしながらそんな自分でも、「なるほど」と理解・納得できる部分がいくつかありました。

自動運転「GMクルーズ」の優位性

 その一つが、この5月にソフトバンクが出資を発表した米ゼネラルモーターズ(GM)の自動運転に関してです。この日、プレゼンテーションのために来日したGM社長のダン・アマン氏を紹介する前に、孫氏は次のように語りました。

 「今から50年先ぐらいには、クルマは一般の人には運転が許されない特殊な乗り物になっているでしょう。現在の馬のような存在です。馬はかつて、交通手段の柱でしたが、今は一般道や高速道路で乗ることはできません。乗馬は今や、趣味の領域。50年後にはクルマも、そんな存在になっていると思います」

 周知のようにソフトバンクグループはこの5月、傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を通じて、GM傘下の自動運転技術開発会社GMクルーズに約2400億円を出資すると発表。これにより同社の企業価値は、一気に4倍に跳ね上がったとの報道もなされたほどでした。

 自動運転技術については欧米IT系企業が先行しているとの見方が支配的ですが、ITやAIの事業・投資を主軸とするソフトバンクが陣営に加わったことで、GMグループへの注目度が大きくアップ。しかも、ソフトバンクはライドシェアの米ウーバーや中国ディーディーの大株主でもあることから、それらとGMクルーズとの提携によるシナジー効果への期待も、非常に大きく膨らんでいるようです。

 孫氏によればGMクルーズの強みは、交通量が多く、より複雑な判断や操作が必要となるサンフランシスコでの公道実験を積極化していること。この日のプレゼンでもアマン氏は、より現実的な公道環境での実験成果として、工事現場や工場などでの走行データを披露。郊外での公道実験を主体としている他のIT系企業との違いを、大きくアピールしました。

 「100年前にクルマが出現したことで、人はいつでも自由に遠くまで出かけることが可能になりました。しかし同時に、交通事故・環境汚染・交通渋滞という問題も深刻化しています。この解決策がAIによる自動運転です。単に道路を走らせるだけなら簡単なAIで可能。しかし、現実の道路ではさまざまな判断が求められます。これをAIが行う時代になります」(アマン氏)

 GMクルーズは、2013年にカリフォルニア州サンフランシスコで設立されたクルーズ・オートメーションが前身です。自動運転レベル4(高度運転自動化)~レベル5(完全運転自動化)の技術開発を進めており、2016年3月にGMが買収。GMクルーズはハンドルやペダル類のない自動運転車「クルーズAV」に関して、2019年からの生産開始計画を発表しています。

 そしてまずは、無人のロボットタクシーへの投入が見込まれているだけに、実現すればウーバーやディーディーとのシナジー効果も非常に大きなものとなりそうです。ただし、孫氏はもう少し先を見据えているようで、次のように語っていました。

 「30年後か50年後に、完全な自動運転化が完成すれば、街のインフラもトラフィックも大きく変わります。その一つは信号機がなくなること。AI車同士が行き交うので、事故にはならない。それどころか街中を、時速200キロで行き交うことも現実化します」

 確かに理屈の上では、そうかもしれませんし、実現すれば今までの運輸・輸送業界が根本から覆ることは確かでしょう。その実現性が、どの程度なのかはまだ分かりませんが、実現に向けたビジネスがまさに今、現在進行形で進んでいることだけは確か。そのことを痛感させられた基調講演でした。(征矢野毅彦)