必読!これがホントの“節税”講座古巣”銀行業界”への緊急提言
フィンテックの波をどう掴むか!?

寄稿:梅川 貢一郎(有限会社トライアングル 代表取締役・税理士・公認会計士)

http://www.umegawa.com/

先日のことです。私は事務所の法人キャッシュカードをどこかに紛失してしまいました。

ネットバンキングを利用していますので振込などは可能ですが、現金を引き出すのに通帳と印鑑を銀行に持参しなければなりません。仕方なく紛失届と再発行の手続きを行うため銀行の支店窓口に出向きました。

ご相談窓口は閑散としていましたが、予想通り30分ほど待たされました。ようやく順番が来て、会社の実印と届出印、通帳を出して用件を伝えたところ、「キャッシュカードの紛失・再発行手続きには、会社の登記簿謄本と印鑑証明が必要」といわれました。

思わず聞いてしまいました。「なぜ会社の登記簿謄本と印鑑証明が必要なのですか」。窓口の女性いわく「ご本人様確認のためです」。

私は運転免許証を出し、私が「本人」であることで間違いありません、と言いました。すると女性は、「いいえ、法人様のご本人確認です」。

無駄とは知りつつ、さらに私は食い下がりました。「法人の代表者である自分が法人の実印と届出印を持ってきているのに、なぜそれ以上の証明が必要なのですか」と。回答はもちろん「規則ですから」。

実はこのようなまるで旧ソ連のような「お役所仕事」が銀行には満載です。顧客本位でなく銀行本位としか思えないサービスだらけです。今回は、私の古巣である銀行業界について、最近感じている「想い」を書いてみたいと思います。

今、銀行業界に襲い掛かっている大きな波はフィンテックです。銀行業界はフィンテックによって大きな変化を迫られています。

フィンテックとは、ファイナンス(金融)事業とITを結びつけた、従来とは全く次元の異なるサービスの提供全般をいいます。ITとインターネットの発展は多くの産業分野で、新規企業による斬新なサービスや商品提供を可能にしました。

その結果、彼らは従来型大企業の地位を脅かす存在となりました。同様なプレーヤーの交代が、銀行業界でも待っていると考えるのは当然の思考です。

フィンテックとAI

メガバンクが主に行っている国際業務(海外企業への貸付、債券の購入など)を除けば、銀行の主な収益は、融資金による貸出金利と送金手数料を代表とする手数料収入です。

その収益の大きな柱である送金手数料が、フィンテックによって限りなくゼロに近づこうとしています。

仮想通貨の基本的な技術であるブロックチェーンを応用すれば、コストはほぼゼロで、安全に口座間の資金移動が可能であるといいます。確かに仮想通貨は、ネット上のアドレス間の残高情報の変動ですから、通信コスト以外にほとんどコストがかかりません。

現状では中国をはじめ仮想通貨の取引を原則禁止している国がいくつか存在します。しかし、このような便利で安価、しかも基本的には安全な送金手段が将来普及しないはずがないと思います。

今年、三菱UFJ銀行が独自の仮想通貨「MUFGコイン」の実用実験を始めたという報道がなされました。フィンテックに消極的な銀行が生き残れるとは思えません。

フィンテックと並んで、銀行業界に大きなインパクトを与えると予想されるのが、AIによる「省力化」です。AIの普及で人手を省くことができる仕事が「事務仕事」です。経理係や税理士・会計士は将来なくなる仕事候補のナンバーワンです。そして、銀行員の仕事のほとんどは、定型的な「事務仕事」ですし、将来的に窓口業務はペッパー君のようなロボットが、テキパキとかつ親切に対応してくれるでしょう。

「いやいや、これから高齢化社会が本格化すると、ATMのような機械を使えない人が窓口の人的サービスを頼りにする。窓口業務はなくならない」という意見もあります。

しかしATMが使えない高齢者は現在70歳以上のお年寄りですが、今から30年後にはすでにほとんどの方が寿命を迎えます。これからのお年寄りは、スマホやインターネットを使いこなす世代。窓口がすべてロボットとコンピューターの端末になっていても何ら抵抗感がない世代なのです。

融資の与信判断も人が経験で行うよりも、銀行に大量に蓄積された過去の様々なデータや外部から入手するビッグデータからAIが判断したほうが「正確性が増す」といわれています。

日本のメガバンクは、AIが普及しても大規模なリストラは行わずに、余った人員は、人間にしかできないようなコンサルティング部門に配置するとしています。

もちろん、銀行がこれから生きる道として、専門的なコンサルティング業務は大切ではあります。とはいえ、やはりコストをギリギリまで切り詰めて、低金利競争、手数料のダンピング競争を勝ち抜く以外に現状では生きる道が無いように感じます。

金融検査マニュアルの廃止

金融検査マニュアルをご存知でしょうか。金融検査マニュアルとは、金融庁が金融機関を検査する際に基準として用いるマニュアルです。

1991年にバブル崩壊が起こり、遅々として進まない銀行の不良債権処理の徹底を目的に制定され、1999年から導入されました。銀行の資産である貸出債権を正常先、要注意先、破綻懸念先などにランク分けして、貸倒リスク相応の引当金を銀行に積むことを要求するものです。

引当金を積むことは、会計上銀行にとっては損失になります。損失が一定以上に膨らむと銀行自体が実質的に破綻しているとみなされ、国の管理下に置かれたり、他行に吸収合併されたりします。銀行にとって、金融庁の検査でダメの烙印を押されることは、まさに死活問題です。

金融検査マニュアルは、主に貸出先企業の決算書を分析して「数値化」するものであるため、銀行は、良好な検査結果をもらうために、決算書が「良好」な企業に対してのみ積極的に貸出を行います。ところが銀行が金融検査マニュアル通りに企業を評価するため、とんでもない弊害がおきました。

金融検査マニュアルは公表されていますから、「お金を借りやすい」決算書とはどのようなものかは、誰でも分かります。融資を受けたい企業は、決算書上で小手先の細工をしたり、粉飾決算を行うことが横行したのです。

そこでなんと金融庁は、今年から金融検査マニュアルの廃止を決定したのです。

従来のように決算書や担保・保証の有無のみを基準に貸出先債権を査定するのではなく、その貸出先がどのような事業を行って、将来どれだけ利益を生むかを、銀行が理解しているかどうか。いわゆる事業性の判断も重要な査定対象となったのです。

金融仲介機能への回帰

これは今後の銀行業界に、相当大きなインパクトを与えることになります。銀行は、決算書が単に現在の返済能力を示しているに過ぎないという事実を認めて、これからどれだけ儲けるかという事業性を評価して、融資を行うよう努力するようになると思います。事業を理解できなくともマニュアル通りの融資を行っていればいいという安易なビジネスは、もはや成り立たなくなるでしょう。

日銀が「黒田バズーカ」と呼ばれる異次元金融緩和を行うと同時に、金融庁は銀行の従来型ビジネスモデルである決算書や担保・保証でお金を貸す、から「事業性を評価」してお金を貸すスタイルへの転換を促す役割を負っていました。

金融庁は2016年行政方針で、銀行や信金信組が担保・保証に依存した取引に偏った結果、必要以上に顧客と取引を行わなくなった。金融仲介機能が発揮されていないと明言しました。

そして今回の金融検査マニュアルの廃止は、本来の「金融仲介機能」を発揮しているかどうかを、これからは検査対象とするという、銀行業界への意思表明といえます。

政府がはっきりとその方針を示し、今後銀行がその本来業務を「理念」にもとづいて行うよう指導することには大賛成です。銀行は、過去の決算書や担保の有無などではなく、企業の事業性、社長の手腕に対してお金を貸し出してほしいものです。

特に、大企業や海外企業が商売相手のメガバンクはともかくとして、地方銀行や信用金庫、信用組合は地元に密着して、地元経済発展のために金融仲介業務を忠実に行うべきと考えます。

地方には事業再生を望む衰退企業や、シャッターが閉められた商店街が山のように存在します。これらは見方を変えれば宝の山とさえいえます。銀行はいうまでもなく金利の低い資金をいくらでも調達できます。

確かに事業を評価したり、再生するのは簡単ではありません。様々な業界に関する知見や人脈、経営環境を分析する能力、場合によっては経営する能力そのものを求められます。

しかし、銀行には成績優秀な人材が豊富にいます。安易なリストラを断行することなく、優秀なバンカーを育ててほしいものです。