福島敦子のアントレプレナー対談リフォームを家電業界に根付かせる!
その思いが生んだ「家電住まいる館」

株式会社ヤマダ電機 三嶋 恒夫 代表取締役社長

株式会社ヤマダ電機(〒370-0841 群馬県高崎市栄町1番1号)

株式会社ヤマダ電機
●本社所在地:〒370-0841 群馬県高崎市栄町1番1号
●創業:1973年4月 ●設立:1983年9月
●資本金:連結710億円(2018年3月)
●総資産額:連結1兆1,755億円(2018年3月)
●自己資本比率:連結49.8%(2018年3月)
●従業員数:連結19,752名※(2018年3月)
●発行済株式総数:966,489,740株(2018年3月)
●URL:http://www.yamada-denki.jp/
※平均臨時雇用者数を除く。

たった一つの“後悔”

福島ヤマダ電機の社長に就任されたその心境からお聞かせください。

三嶋正直申しまして、私はこんなに大きな会社の社長になるような器じゃないものですから、最初は迷いもしました。そして覚悟を決めました。小売業ですから、難しいことをいうよりも、「お客様に喜ばれること」「当たり前のこと」を当たり前にやっていくしかない。今はこれを目標にやっていこうと思っています。

福島社長就任に関して山田会長から、どんな言葉を掛けられたのでしょうか。

三嶋実は山田会長が思われていた社長像というか、私に望まれたことは、いわば「まとめ役」ということでした。ヤマダ電機には数多くの優秀な方がいます。その方たちといかにコミュニケーションを取って、まとめあげて、会社をいい方向に持っていくか、ということだったんです。私自身はそんなに能力のある人間ではないのですが、皆が一致団結するためのまとめ役・牽引役ということでしたら、ということでお引き受けしました。

福島三嶋社長は前職の退社後は、引退してのんびりしようと思っていたという記事を拝見しました。それが一転、ヤマダ電機に入社されたきっかけは?

三嶋前職には30歳のときに転職したんです。その時に「55歳までは必死に仕事をしよう」と決めていました。そして実際、55歳までに人を育てたり、いろいろなことをしてきました。

 ですから本当に55歳を迎えて、もういいかなということで引退して、今まで自分が知らなかった海外に出向いたり、いろいろな体験をしたり、そんなことをやろうと思っていました。ただ、その一方で、多少の後悔があったんです。

福島どういうことでしょうか。

三嶋私は2006年に家電業界で初めて、リフォーム事業を立ち上げました。最終的には500億円近い売り上げになったのですけれど、正直、リフォームはなかなか順調には行かなかったんですね。

 というのは、家電業界でリフォームを売るということは、社員のリフォーム商品に対する接客能力と商品への理解が必要だからです。ですから他の家電量販店でも、本当に成功しているところがまだないんです。

 リフォームを家電業界に根付かせることができなかったということが、私の中で後悔としてあったんです。「もっとこんなやり方をすれば、根付かせられたはずだろう」という。

 そう思っていたときに山田会長からお話をいただきました。そして、私の考えていた方向と山田会長がやろうとしている方向とが一緒だと分かりました。ですから一度は引退するつもりだったのですが、山田会長に「一緒にやろう」とお誘いいただいた時に、思わず「分かりました」とお応えしたんです。

福島家電とリフォームの、ビジネスとしての一番の違いはどんな部分でしょうか?

三嶋例えば炊飯器の前に10人のお客様が立っていたとしましょう。その方たちを接客すれば、いい店ですと8〜9人、どんなに悪い店でも5人には買っていただけます。

 そして10人のお客様に接客して1台も売れないような商品は、すぐに取り扱いがなくなってしまう。それぐらい家電業界は、売れる商品を取り扱っているということなんです。

 ところがリフォームの場合、例えば99人に声を掛けても、一件も現地調査が取れない場合があります。そして100人目に声をかけた方に、やっと話に乗っていただき現地調査が取れるという場合もあります。要は家電とは、お客様の購買動機が違うのです。それを社員に頑張ってもらい、ビジネスにしてきました。

 しかし、本来であればそうではなく、「なるほど。だったら家電量販店でリフォームをやろうか」という流れにしないといけない。そのスキームを作れなかったことが、私の一番の後悔でした。

山田会長の思いと合致

福島その流れを作るということが、山田会長と三嶋社長の共通の思いだったということですね。

三嶋そうです。リフォームというのは、実際に施工すれば生活も豊かになるし、すごく楽しいんです。けれども極端な話、キッチンが壊れたからといって買いに来るお客様はいないわけですよね。

福島そうですね。

三嶋家電製品の場合は、耐用年数はだいたい10年。それぐらいで壊れますから、買う動機づけがある。けれども住設機器は耐用年数がもっと長いですから、動機づけする部分がないんです。ですから今までは、お客様にいろいろな話をしていく中で「キッチンを変えよう」と思っていただいてきました。

 しかし、そうではなく、家電製品を接客している中から自然に、「だったらリフォームしたいよね」という、つながった形にできなければいけない。どうやったらお客様に、自然な流れでリフォームにつなげられるか。これを山田会長とさんざんディスカッションしました。

 そこで分かったことは、私が「こういう商品があったらつながっていくよね」と思っていたことと、会長が思っていらしたことが一緒だったことです。

 それが最新バージョンの「家電住まいる館」なのです。例えばテレビとセットになるテレビ台にしても、今まで電気屋が売っていたものはガラス扉のテレビ台。しかし、もうガラス扉なんてはやりません。今は格子のスリットが入った恰好のいいものが主流ですけど、電気屋にはそんなテレビ台はなかったんです。

 本当はテレビと一緒にそういうテレビ台をセットで提案できないといけない。そして最新デザインのソファーにも実際にお座りいただいて、「これに座ってテレビを見ると楽ですし、もっと楽しくなりますよ」と提案する。

 さらには「テーブルはこんな感じのものがあります」「ラグはこの柄ではいかがでしょう」「照明はこんな感じでどうでしょう」「カーテンはこうしませんか」などと、結局はリビングのトータルの話に自然と広がっていくんです。

 そしてリビングトータルの提案をしていくと、自ずとそれがリフォームにつながっていく。リビングがちょっと狭いとお聞きすれば、「では、リビングとダイニングを一つの部屋にするのはいかがですか。これなら奥様も料理をしながら、ご家族と一緒に会話を楽しめますよ」とか、そういう提案に自然につながるようになります。

福島テレビから始まって、どんどん広がっていく。

三嶋そうです。山田会長によくご指導いただくのですが、「リアルの店の価値とは何なのか」と。それはやはり、今までほしいと思っていなかった方に、ヤマダ電機に買い物に来ていただき、店でいろいろな体験をすることで、新たな価値を知っていただくことです。

 ヤマダで買い物をすることの喜びといいますか、そういったことを体験していただけるようなお店にならないといけない、という話をずっとしてきたんです。

 お客様がほしいものを買う。これは当然のことです。その上で、「こんなものもあるのか」と。「これを使うと、こんなに便利になるとは思わなかった」ということを、具体的にお店で提案できなければいけません。お客様に新たな体験をしていただき、新たな価値を知ってお買い求めいただくスタイルですね。

福島なるほど。

三嶋家電がコアで、そこを起点にリフォームや新築など、ヤマダ電機グループの住関連ビジネスにつなげていく。

 そんなディスカッションを続けてきた中で、一つピースが足りないことが分かりました。それがインテリア・家具だったんです。それさえつなげれば、家電をコアにインテリアと住設機器、新築、リフォーム、さらには不動産、金融という、ヤマダ電機グループの持つシナジーをすべて、つなげられる店ができる。ということでスタートしたのが「家電住まいる館」です。

女性が来店しやすい店作り

福島最新のヤマダ電機さんの店舗を拝見して、今までの店舗とまったく違うと思いました。「ここはどこなんだろう」と感じるぐらいドラスティックに変わっていて。特に、女性のお客様が多いという印象を受けました。

三嶋そうですね。昔ですとヤマダ電機というのは、店内にヤマダのテーマソングが流れて、商品を買ったらすぐに帰ると。ゆっくりできない。ところが山田会長が「ヤマダは男のお客様ばっかりだ。これからは、もっと女性のお客様が入ってこられる店にしないと、小売業はダメになる」といわれ、そこで照明の明るさやBGMからフロアの色や素材まで、すべてを刷新したんです。

福島店員の方たちも、かつてはほとんどが男性。これはヤマダ電機さんに限らずですけれども、家電量販店は男性社会という感じがありました。これからは女性のお客様が増える。そして働く方も女性が増えているということで、本当にいろいろな面で大きく変わっていきますね。

三嶋おっしゃるとおりです。やはり男性ですと、現状ではインテリアにまで目が行く人はまだ少ない。その点で女性は、色の楽しさであったり、カラーコーディネートということに、精通した方が多くいらっしゃいます。

 しかも最近は、特にお金をそんなにかけなくても、自分の生活をより楽しくしたいという流れもあります。そういった流れの延長線上に、家具やインテリア、リフォーム、そしていろいろな家電製品がある。そういうライフスタイルを丸ごと提案したいという思いを「家電住まいる館」に込めています。

福島ゆったり買い物ができるように、カフェもありますね。

三嶋そうなんです。これは非常に喜んでいただいています。やはり今までですと、お客様はたいてい、ご自分のほしい商品しか見なかったんですよ。せっかく来店されたのだから、本当はすべての商品を見ていただきたい。ほしい商品の売り場から、ほんの少し歩いていただくだけで、他の魅力的な商品がありますよとご案内するのですけれど、なかなか見ていただけませんでした。

 それがカフェを設けたことで一変しました。買い物をしていただいて、コーヒーを飲んで一服していただく。その最中に店内をゆっくりと見回していただけるんです。

 そして「ヤマダ電機はあんな商品も取り扱っていたんだ」とか「あんなインテリアを置いているんだ」という発見につながり、コーヒーを飲んだ後に売り場に寄っていただける。ですから今は、非常に滞留時間が長くなっています。

福島最近のデパートとも、似ていますね。デパートも以前は、売り場にいろいろな商品をできるだけ置いて、無駄なスペースを作らないようにしていました。けれども、それではお客様は疲れて、ゆっくり買い物できない。そこで最近は、あえていい場所に椅子を置いたり、カフェを設けたりという方向に、変わってきていますよね。お話をうかがって、それと同じような感じがしました。

三嶋同じだと思います。私、実はデパートが大好きでしてね。よく行くんですよ。

福島そうなんですか。男性では珍しいのではないですか?

三嶋まず何よりも、あの接客が心地いい。やっぱり心地よさというのは、小売業にとって非常に重要なファクターだと思っています。

 ですから家電住まいる館も、音楽であったり、売り場であったり、コーヒーであったり、社員の接客であったりと、すべてに細心の注意をはらうよう心がけています。

 そして店からの提案が心地いいと感じていただけるようにしていきたいし、そうならないと多分、これからの小売業は厳しいのではないかと思っています。

家電業界「二つ」の方向性

福島家電量販店は業界全体が大きな変革期にあるように感じます。業界全体の先行きを、どう見ていらっしゃいますか。

三嶋これはあくまでも、私の個人的な見解として、お話をさせていただきます。将来、どんどんと少子高齢化が進み、人口減になっていく中で、日本の家電量販店業界がどうなるかというと、私は、アメリカのように量販店が1社しか残らないという状態に、限りなく近づいていくんじゃないかと思っています。

 アメリカの家電量販店業界は、全社が家電だけでやっていましたが、結果、ベスト・バイしか残りませんでした。そして今、ベスト・バイ自体もどんどんと店を閉めています。

 では日本の家電量販店はどうすればいいかといいますと、一つはリフォーム・インテリアをどう取り込むかということ。そしてもう一つは、海外に出るだけの力をつけられるか、ということです。私はこの二つが、あるような気がしています。

 まず家具ですが、この商品分野は今、インテリア業界が取るのか、ホームセンターが取るのか、家電量販店が取るのかという、この戦いになっています。

 そういう戦いの中から、家電業界がどんな商品を組み合わせて、業態を確立できるかということが、大きなキーの一つだろうと思います。

 それともう一つの海外ですが、これはSPA(製造小売業)で自分たちの家電商品を作り、それとインテリア&リフォームとを組み合わせて世界に出られるのかということです。

 ちょっと大それた考えですけれども、私はそちらの方向もあるのではないかと考えています。現状では家電量販店で、インテリアとリフォームを組み合わせた展開をしている業種・業態は、世界のどこにもないので、チャンスはあるのではないかと思っています。

福島最後にこれまでのご経験も踏まえて、経営者として大切にされている信条などをお聞かせください。

三嶋正直な話、私はリーダーなんていうガラじゃないと思っています。ただ、小売業で大事なことは、CS(顧客満足)の前に、ES(従業員満足)がなくてはいけないと思っています。

 店を回ったときにいつもいっていることは「小売業で一番大事なのはお店のお客様。その前に社員の人ですよ」ということです。「本社はお店のためにあるし、お客様のためにあるので、お客様と相対している社員の人が一番大切なのですよ」と。

 これはもう昔からの持論なんです。とにかく、お店の人が仕事をしやすい環境を作る。そしてお客様からの「もっとヤマダ電機、こうなってほしいよ」という要望を、キャッチしていただきたい。そのためのバックアップをするのが本社だと思っています。

 小売業としては当たり前のことなんですけれど、当たり前のことを当たり前にできるようにしていかないといけない。お客様を見て、お客様に喜ばれることをやり続けなければ、小売業は衰退してしまうということを肝に銘じています。

 ですから、社長という役目をいただいていますけれども、店へ行って話をするときも、できるだけ店の社員と同じ制服を着ています。場合によってはオープンセールも制服で立ち合います。今はそういったことを、何よりも心がけています。(敬称略)

三嶋 恒夫(みしま・つねお)氏
1959年生まれ、福井県出身。金沢経済大学(現金沢星稜大学)卒。1982年北陸ソニー販売(株)〔現ソニーコンスーマーセールス(株)〕入社。1989年(株)サンキュー高島屋〔現(株)サンキュー〕入社。2012年10月 同社代表取締役社長就任。2015年6月(株)エディオン取締役ELS本部長就任。2017年1月ヤマダ電機入社。2017年6月同社執行役員副社長就任。2018年6月同社代表取締役社長兼代表執行役員COO就任。
福島敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト / 津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年独立。NHK、TBSで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに600人を超える経営者を取材。現在、BSジャパンの経済番組「マゼランの遺伝子」のキャスターを担当。経済・経営の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。主な著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。
URL: http://www.atsuko-fukushima.com/